下り坂をそろそろとくだる〜第三回びぶりば〜
初めて開催した読書会の時に、都会での生活経験があるMさんが、「町に映画館とか、劇場とかそういった文化的な場所が増えるといいと思っていた」(だから読書会ができて嬉しい、という文脈だったと思う)、というお話をされていたことが頭に残っていてた。そこで、町に文化的な場所が増えるってどう言うことなのかを考える題材として、平田オリザさんの「下り坂をそろそろとくだる」を第三回の課題図書に設定させていただいた。
第一回目で課題図書として取り上げた「新復興論」の中でも議論されていた「文化の自己決定能力*」に関わるような話が出来たら面白いだろうと思ったのだ。この本は、いわゆる「町づくり」とか「コミュニティデザイン」に興味を持って調べ始める前に出会っていた本で、「少子化は若者がスキーに行かなくなったからだ」というちょっと過激な論から始まったりする。高校演劇をやっていた身としては「平田オリザさんてこのようなことを考えている人だったのか」と驚きとともに印象に残っていたように思う。オリザさんが関わってきた各地の事例をベースに「子供達が自分の生まれ育った地域に対し誇りを持つためには?」「人が来たくなる面白い地域、文化政策とは?」を論じていく。瀬戸内国際芸術祭をきっかけにした小豆島での取り組みや、兵庫県豊岡の城ヶ崎温泉街、実際に行ってみてみたくなる場所がたくさん出てくる。
*文化の自己決定能力:自分たちの誇りに思う文化は何か。そして、そこにどんな付加価値を付ければ、よそからも人が来てくれるか自分たちで判断できる能力(p158)
読書会の中では、子供たちが自分の地域を誇りに持つ、という要素の一つに「地域のことを知っている」かどうかが関わっているのではないか、そうならば、自分の地域のルーツや歴史を知って行きたいね、という話になった。ふと、「岩泉でも演劇をやったよね、息子が小学校の時」と話が出た。聞くと、20年ほど前に劇団員を目指していた方が小学校教員として働いていた時期があり、岩泉の歴史を元にした演劇を学習発表会でやったことがあったそうだ。しかも、全員役を当てがきのオリジナル脚本で。
「ふだんあんまり目立たない子たちが、輝いちゃったのよね、劇で」「そう、もう一回観れるならみたい」当時、保護者だった二人の会話が弾む。子供たちは、本番前には朝から夕方まで一日稽古をして帰ってきたこともあったという。驚くことに、その学年の保護者の雰囲気をみてー「ここの先生はどうなってるんですか!」と殴り込みにこなさそうかどうかーどこまで劇に打ち込めるか決めていたのではないかと言うことだ。楽しかっただろうな、と素直に思った。そして、20年経ってもなお保護者側にもこんなポジティブな感情を残している演劇の力に、なんだか感動してしまった。子供たちも、保護者も、多分「ほんもの」の演劇の一端に触れたのではないか、その時の発表会体験が何かの形で今も当人たちを支える出来事になっているんじゃないか・なっていたらいいなと勝手に想像した。
文化、芸術による町づくり、コミュニティ作りって、こう言うことなんじゃないだろうか?
この、芸術に対するポジティブな経験を共有できていることは、今後みなさんと何かやりたいと思った時に、プラスに働く予感がしている。
”私たちは、そろそろ価値観を転換しなければならないのではないか。雇用保険受給者や生活保護世帯の方たちが平日の昼間に劇場や映画館に来てくれたら(中略)「貧困の中でも孤立せず、社会とつながってくれてありがとう」と言える社会を作っていくべきなのではないか。そしてその方が、最終的に社会が抱えるコストもリスクも小さくなるのだ。(中略)西欧の社会保障、生活保障の中にはきわめて当たり前に「文化へのアクセス権」が含まれている。”
オリザさんは、平日日中に育児中の母親が子供を預けて演劇や映画を見ることが肯定されている雰囲気があるかないかが、子供の育てやすさや少子化にも関わってくるのではないだろうかとも同書で言及している。実感を持って、そうだろうなと思う。文化にアクセスすることが当たり前に認められていること、そして自分がアクセスしたいと思える文化的なコトを見つけられるかどうが魅力ある地方の要素であることを改めて認識した会になった。
(写真は、読書会の際に提供されたどんぐり粉を使ったピザ。雑穀料理は岩泉の文化の一つです)