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地域福祉援助をつかむ-地域指向性ケアを考える-

今年度は以前から気になっていたコミュニティヘルスリーダーシップ研修、CHLのオンライン学科を受講しています。

来月で学科も折り返し地点。DAY4の課題図書「地域福祉援助をつかむ」を読んだので、自分の理解のためにまとめてみたいと思います。

2012年に出版された本で、ソーシャルワーカーが主な対象です。地域福祉援助とは「地域を基盤としたソーシャルワーク」と、「地域福祉の基盤づくり」の両軸で行なっていくものであるということを、事例を交えながら解説しています。地域を基盤にしたソーシャルワークというのは、個別事例への対応を通じてチームが成長し、地域の対応力が上がっていくというベクトル。そして、地域福祉の基盤づくりは、ケアリングコミュニティを作るために地域特性を知り、地域のステイクホルダーと協働した結果、個々の住民に還元されていくというベクトルです。

地域連携の際に、なんとなく使いがちな「ネットワーク」についても本書では以下のように定義されています。①ソーシャルワークの目的を達成するための手段、②関係者(関係機関)の「つながり」、③機能としての連携・共同・参画・連帯の遂行、④状態及び機能と言う特性。

この、「状態及び機能」というのは次のように説明されています。

”ネットワークという「状態」を維持するためには、何らかの「機能」がそこに伴うことが不可欠である。「状態」として維持するためには、それぞれの構成要素が全体として機能すること、そしてネットワーク全体として一定の方向性を持った機能性を帯びることが重要である。”

つまり、なんとなくの専門職集団の集まりではなく、「一定の方向性」を持っているということがネットワークの要件であるということです。例えば、地域づくりのネットワークを作ろう!、といった時、どんな機能やアウトカムを期待してネットワークを作るのかお互いに了解できている必要があるということだと思います。

機能や目的、期待するアウトカムはもちろん重要なのですが、地域の課題に取り組む際、悩ましいのもこの部分ではないかと個人的には思います。地域の課題やそれに取り組むチームは、関わる人が増えれば増えるほど、生き物のように変化していくことも多いからです。強いリーダーが明確な目的に向かってグイグイひっぱていくだけではうまくいかない事も往々にしてあります(もちろん、うまくいく事もある)。その時に、どうしたらいいのか?

本書は、地域援助における「戦略」の必要性・意義を考える課題図書でした。先に述べた二つのベクトル(「地域を基盤としたソーシャルワーク」と、「地域福祉の基盤づくり」)どちらの方向も必要であるのは明らかですが、1)まず個別事例への取り組みがあり、2)その取り組みを通じて見えて来た課題をステークホルダーと協働し、3)最終的に個別事例に還元するという流れを本書は示しています。

いきなり最初から大きな課題に取り組み始めるよりは、目の前の個人の課題を通じて、地域に還元していく。私を含め医療介護福祉の専門職は、日々、目の前の個人課題に取り組むことを仕事の中心に置いていると思います。あくまでもそこを出発点として据えつつも、地域へと視野を移す時には、個別性の高い課題を一般化するベクトルへの変換が必要です。個人から地域のベクトルに切り替える際に必要なものとしては、ファシリテーション能力やリーダーシップについての言及があり、日本の地域福祉制度についての知識についても概説されています。こういった知識や技術をうまく使いながら、関わる人たちとネットワークの方向づけをしていく力が、地域福祉の基盤づくりに必要なのだと思います。本書は地域づくりのそれぞれの段階の持つ意義や役割を理解するにはとても役立つ一方で、戦略という意味ではフレームワークが提示されているわけではなく、各段階をチームで共有するには時には本書は使いにくいかもしれないと思いました。

神馬*1は集団に対するアプローチ(コミュニティアプローチ)の系譜は

1)コミュニティエンゲージメントに関する系譜(エンパワメント、ソーシャルキャピタルなど)、

2)戦略立案型アプローチに関する系譜(イノベーション普及理論、コミュニティ参加型研究:CBPR)、

3)問題解決型アプローチに関する系譜(PRECEED-PROCEEDモデル、ソーシャルマーケティングなど)

に分類することが出来るが、従来行われてきた戦後日本の地域保健活動はこれらのフレームワークに単純に当てはめることが出来ないとしています。

*1 一般社団法人日本健康教育学会(編), 健康行動理論による研究と実践, , 医学書院, 2019, p24-32.

近年「コミュニティ」という言葉が話題になり、各地で様々な取り組みがなされていますが、欧米で作られたフレームワークを日本でどう実装していくかについては、コミュニティ活動がどんなプロセスを経て展開していったのかを、私たちが記録していく努力(もっと言えば、研究活動として)が必要なのかもしれません。日本で独自に発達した「地域福祉論」を知るには本書はとても有用だと思いますが、どのように実践していくかの戦略を客観的に振り返る際には、コミュニティアプローチに関するフレームワークを用いた方が他のメンバーにも共有しやすいのではないかと思いました。

例えば、健康教育とヘルスプロモーションのプログラムを設計するための道筋を示した有名なPRECEED-PROCEEDモデルを取り上げてみます。このモデルは第一段階として「社会アセスメント」、第二段階として「疫学アセスメント」をあげています。地域⇨個人(対象集団)⇨地域(成果評価)というプロセスなので、上述した本書の流れ(個人⇨地域⇨個人)とは逆のようにも見えます。PRECEED-PROCEEDモデルは、まずターゲット層の特定や現状分析を行うことを前提としているからです。

個々の援助者レベルで取り組む際には、1)個別事例や課題発見の出来事との遭遇、2)個別事例への取り組みを通じたネットワーク形成や強化、3)事例の一般化が当該地域でできるかの検討(地域アセスメント)、4)強化されたネットワークを通じて地域へ取り組みに切り替えていく(ここでコミュニティアプローチのフレームワークを意識してとりくみはじめる)、、、という感じでしょうか。個別事例との遭遇や、個別事例への取り組みはごく小さな規模でPDCAが回る可能性が高いので、事例の一般化ができるかどうかの判断をするあたりで、例えばPRECEED-PROCEEDモデルを挿入して課題に取り組むことも可能なのではないかと思います。

自分以外のチームメンバーと協働する段階になった時に、用途に合わせてフレームワークを引っ張ってきてみることでロジックが「見える化」し、メンバーが同じ方向を向きやすくなるのではないでしょうか。(これを「ロジックモデルを作る」作業とも言うようです)

以下、それぞれ印象に残った文章などについて、記録の意味も込めて一部抜粋しておきます。

"「川」を「社会」としてイメージ化し、その流域上に「ワーカー」を置いている。そしてそれを「社会」の流行上に置くだけでなく、「日常生活圏域」と交差するところに位置づけることによって、本人が生活するところを拠点として援助展開することに重要な意味をもたらす。ワーカーの専門性は、日常生活圏域における固有の文脈の中で展開されるところに大きな特徴があり、地域の一体的支援の大きな特性と言える。ひいては地域を基盤としたソーシャルワークを大きく特質づけることになる。p45"

"対人援助とは、若人の援助関係の中でクライエント自身が自分の問題を解決していくための取り組みでなければならない。生活上の課題や問題を解決する。その際の主語は、本人以外ありえないと言うことである。それは、個人に降りかかる様々な課題を誰も肩代わりできず、他には請け負うことができないと言う厳然たる事実に起因する。p55"

ステークホルダーと課題を共有し地域づくりをしていくベクトルに焦点を当てた本後半では、「主体をいかに形成するか」と、「貧困的な福祉観の再生産」という論点が興味深かったです。

住民の中に主体性を育むとは、「福祉コミュニティにおける共鳴者や代弁者を増やしていくこと」とし、「個人」と「地域システム」のフラットな関係を元に、「時間」軸を据えて、個人も地域システムも変化・成長していく対象であり、それを媒介する一つの領域として「福祉教育」を位置付けています。

貧困的な福祉観の再生産・・・小中学校の時に体験したような、車椅子やアイマスクを使用した障害の擬似体験といったプログラムを行うことで、子供にどんな障害観が育まれたか。

”擬似体験とは、障害のある人たちの生活の全体像を伝えるものではない。ICIDHの能力低下の部分を体験するにすぎない”。

”高齢者施設を訪れて合唱や合奏などの出し物をしたり、プレゼントを一方的に利用者に渡すだけのプログラムが多く見受けられる。このことの根底には「慰問」的な発想が残っている。福祉施設にいる人たちは家族に見捨てられたかわいそうな人たちで、彼らを直接訪ねて慰めてあげるというのが慰問である。介護保険が導入されて久しくなるが、今日はまさに自己選択・自己決定の時代であり、施設利用は決して恥ずかしいことではない。”

個別の事例や目の前の住民から離れてしまうと大枠で囲った「障害者」や「高齢者」を理解するための授業や取り組みになってしまうのかなと思いました。自分自身も気をつけなければいけないなと思います。能力低下の部分や、住んでいる場所は、あくまで目の前の方の一部分でしかありません。顔が思い浮かぶ誰かを忘れずに、大きな課題にも協働して取り組む。個別事例と地域課題とをベクトルを切り替えながら、フットワーク軽く行き来できるようになりたいですね。

地域で何かに取り組む際に、いつも頭をよぎるのが「この活動は私がやりたいだけか?それとも、必要としてくれている人がいるか?」という部分です。本書の中でその疑問に少し答えてくれている箇所があったので最後に引用してみます。

”ソーシャルワーカーの経験則として、「一人の相談があった時、地域の中に同じニーズが10あると思え。同じような相談が十人からあった時、地域の中には類似したニーズが100あると思え。100人のニーズに応えていくためには、必要な仕組みを作れ。」がある。”

この一人目が「住民としての私」(専門職としての私、ではなく)であったら、それはニーズがあることとして取り組んで見てもいいのかなと(ちょっと強引ですが)思うことができました。

まとまりのない文章ですが、最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。




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