【葬送のフリーレン】構成のリフレイン:過去の押韻
漫画「葬送のフリーレン」には、様々なリフレイン(繰り返し)が組み込まれています。それらを意識しながら読み進めるのも、この漫画の一つの楽しみだと考えています。リフレインの種類についての概要はリンクを参照して頂き、以下では具体例について紹介します。
対象は単行本全10巻97話までですので、ネタバレを避けたい方は読むのを止めて下さい。
本記事で紹介するのは、構成のリフレインの「過去の押韻」です。
「過去の押韻」とは
漫画「葬送のフリーレン」では、過去に行ったことをもう一度行うことが度々あります。ただ、過去のものとは何かが異なることが多いです。History doesn't repeat itself, but it often rhymesという格言があるように、単に繰り返すわけでなく、韻を踏むことにより、以前とは異なる意味合いが生じてくると考えられます。本記事では、その押韻が登場する構成の具体例を紹介したいと思います。
「過去の押韻」の具体例
第1話 冒険の終わり
半世紀流星
・過去
魔王討伐を成し遂げた勇者一行が、王都で行われた祝勝パーティにて50年に一度の半世紀流星を目撃しました。それはまるで、平和な時代の幕開けを祝しているようでした。
ただ街中だと見えにくいらしく、フリーレンが50年後に綺麗に見える場所で見ようと提案し、苦笑しながらも他のメンバーは同意しました。
・現在
50年後に勇者一行は王都にて一旦集結します。50年という月日は人間には長く、ヒンメルとハイターはすっかり年老いた姿になっていました。約束通りフリーレンが、流星が綺麗に見える場所へ案内し、無事同じメンバーで半世紀流星を見ることができました。ヒンメルの以下の言葉にあるように、この流星は勇者一行の冒険の本当の終わりを象徴していました。
同じメンバーで同じものを見ても、50年という人間にはとても長い時間を挟むことで、始まりと終わりという反対の意味が生じているという例です。もっとも基本的な「過去の押韻」のパターンと言えるでしょう。
第12話 北方の関所
この話では、3つの「過去の押韻」があります。
ジャンボベリースペシャル
・過去
シュタルクが幼いとき、師匠のアイゼンと一緒に入った酒場にて、ジャンボベリースペシャルを注文しました。しかし量が多かったためシュタルク一人では食べきれず、アイゼンに協力してもらいました。
・現在
同じ酒場にて、ジャンボベリースペシャルを注文しますが、当時よりも小さく見えます。店主は坊主が大人になったからと言い、シュタルクは少し感傷に浸りますが、それを考慮しても小さくなったと疑問を口にします。店主は、時の流れってのは残酷だよなぁ、と言い残します。
大人になったから小さく見えるという、定番のあるあるですが、実際にも小さくなっていたというオチです。
関所の上にて
・過去
シュタルクが幼いとき、師匠のアイゼンと共に北方の関所の街へ行きました。その関所の上にて、普段は自分のことを話さないアイゼンが、勇者一行の冒険を楽しそうにシュタルクに語りました。
・現在
そのアイゼンがシュタルクに、フリーレンとの旅を勧めたのは、同じように楽しい冒険を経験してこいという意味だと、シュタルクは捉えています。アイゼンはもう旅ができる歳ではないので、代わりにシュタルクが、くだらなくて楽しい旅をたくさん経験し、アイゼンに土産話をたっぷりと持ち帰ることを、関所の上にて決意します。
アイゼンがシュタルクにしたように、今度はシュタルクがアイゼンに楽しい冒険話をすることで、師匠への恩返しを果そうと、関所の上にてシュタルクは決意しました。ちょうど逆の構図になっています。
関所の通過
・過去
魔王討伐を期待され、街の人に歓迎されながら、勇者一行は北の関所を通過しました。
・現在
途中色々ありましたが、結果として、北側諸国にいる魔王軍の残党の討伐を期待され、街の人に歓迎されながら、フリーレン一行は北の関所を通過しました。過去と現在で違う点は、過去ではフリーレンはパーティの最後尾に居るのに対し、現在では先頭に居ることです。
勇者一行もフリーレン一行も、同じく歓迎されながら北方の関所を通過しましたが、フリーレンのパーティでの立場が変化して、現在ではリーダーとしてパーティを引っ張る立場になりました。
第36話 心の支え
風邪をひいたときに手を握る
・過去①
フェルンが小さい頃、風邪をひいたときにフリーレンが手を握ってあげると、フェルンは安心しました。
・現在①
フェルンが風邪をひいたので、過去の経験からフリーレンが手を握ると、フェルンは恥ずかしがり、子供扱いしないでくださいと、拒否の意志を示しました。
フリーレンは特に子供扱いしたわけではなく、フェルンの苦痛を和らげるために自分ができることは、手を握るくらいしかないとの考えでした。どうすればよかったのかシュタルクに尋ねると、以下のように答え、それをきっかけにフリーレンは過去の経験を思い出します。
・過去②
フリーレンが風邪をひいたとき、ヒンメルは彼女の手を握ってあげました。ヒンメルが幼い頃も同じことを母にしてもらっていたので、フリーレンにもしたとのことです。子供の頃の話でしょ?とフリーレンは言いましたが、ヒンメルはシュタルクと同様のことを返答し、結果フリーレンは手を握ることに納得しました。
・現在②
風邪をひいたフェルンのもとに戻り、フリーレンは再び手を握ります。子供ではないと言いかけますが、その上からフリーレンは、知ってる、知っているよ、と答え、子供ではないことを認めた上で手を握っていることを伝えました。それを聞いたフェルンは、手を握ることに納得しました。
この話では「過去の押韻」の過去の部分が2つ(ヒンメルの母親の話を入れると3つ)あり、それらが現在の行動へと影響していることがわかります。
おまけですが、今回風邪の薬を探す途中で出会った亀は、蒼月草を探す途中で出会った種類と同じで、ここでも「過去の押韻」がありました。特に意味の変化はありませんが。
まとめ
漫画「葬送のフリーレン」では、過去と類似のことを行うこと(過去の押韻)が度々あり、具体例を通じて、その構成の役割や効果がどのようなものなのかを紹介しました。今回紹介した以外にも、たくさん「過去の押韻」は登場するので、読み返す際にはその構成を意識して頂くと、また違った味わいが楽しめると思います。
長くなりましたが、最後まで読んで頂きありがとうございました。
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