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君のおばけだったら全然こわくないよ
中学生のとき2匹の猫を保護した。
そっくりな双子の猫はとても小さく、駐輪場のすみっこでひとつみたいにくっついて、震えながら鳴いていた。とても小さく手のひらにぴったり乗せられるくらい。とても弱っていて、1匹はまだ目も開いていなかった。生後1週間くらいだろうか。まだ自力で排泄もできない子猫で、助からないかもしれないと言われたけど、どうしても見過ごせなくて、里親を探しながらしばらくうちで預かることにした。
里親に挙手してくれるひとが現れたときにはすでに名前もつけてしまい、どうしても離れがたくて結局お断りしてしまった。いよいよ我が家の一員となった、猫の名前はトムとミシェル。
トム(写真左)は母が名付け親。たぶんトムとジェリー。ミシェル(写真右)はわたしが、当時よく聴いてたバンド《ミッシェルガンエレファント》と、海外ドラマ「フルハウス」に出てくる末っ子、《ミシェル》から取った。彼女も双子だったし。
今にも無くなりそうに小さく おもちゃみたいにぴいぴい鳴いていた子猫が、もりもり食べて遊んで、気付いたら膝に乗せてもおしりがはみでるようなでっかい猫になった。窓辺にデンと座る2匹をみた近所の猫好きの方からもよく「大きいねえ」と声をかけられていた。
わたしたちは毎晩一緒に眠った。
夏の暑い日は足元やベッドのすぐ脇で、冬は一緒に布団にもぐってくっついた。腕のなかで呼吸するふわふわの湯たんぽ。
朝になるといつも肉球や鼻を、わたしの鼻や口に押し当てて起こしにくる。わざと耳元に顔を向けて大きな声を出してくる...これがとんでもなくしつこいので、いつも根負けさせられる。こちらの都合はまったく関係ない強制目覚まし。早朝、ああやって起こされることが無くなって、いまはぐっすり眠れる。
思い出すとさみしい。
2匹揃って風呂好きで、しっぽをお湯につけるのが好き。特に冬場はシャワーで済ませるとがっかりされる。
雑誌<hanako>の猫特集で取材を受けたとき。完全家猫のトムとミシェルはスタジオに出かけるのも至難のわざでしたが、私のマネージャー(猫好き)も立ち会ってくれて、家族みんなの大切な思い出になりました。編集部や撮影してくれたスタッフの皆様に感謝です。
これまでわたしのSNSを見てくれている人は、2匹のことをよく知っている方も多いかもしれません。
一昨年の夏の終わり、ミシェルが天国に行ってしまいました。膵炎で長い間、病気と闘いました。気にかけてくれている方もいたので、報告しなくてはと思っていたのですが、これについてはなにか書こうとするとつい泣けてしまい、目が腫れて困るのでなかなか進まず、そんな調子なので文章としてまとまらない気もして、随分おそくなってしまいました。
ミシェがいなくなってあっという間に2年がすぎてしまったので、まとまらないなりにも、ここに記録しておこうと思います。
長い入院生活のあと、退院のお迎えが来たところ。まだすこし元気になっていたとき。うれしそう。
寂しかったのか家族の姿を見ると大声で鳴いて寄ってくるんだけど
病院の人たちも「ミシェ」って呼んでくれていてなんか嬉しかった。治療は嫌でも、先生たちには心ゆるしてました。
おて・おかわりが上手な猫だった。ごはんが欲しいときや起こしたいとき、おもちゃで遊んで欲しい時も自分で持ってきてお手する。そのおもちゃを投げるとちゃんとくわえてとって来て、また投げて欲しがる。犬みたいなの。これはミシェだけがやる遊びだった。(トムは遠くから見物)
2018年 8月
悪い芝居の舞台『アイスとけるとヤバイ』の初演が終わって2日後。わたしが実家に帰った翌日に息を引き取りました。もう痩せ細ってフラフラで、病院にも長く入院した後、苦しいなか通院もがんばって、すでに余命宣告もあったので、常に覚悟はしていたつもりでした。
亡くなる日の朝、撮っていた写真。
このあと、名残惜しみながら私は出かけて、母の電話でミシェの状態を知って急いで帰ったけど、間に合わなかった。とても苦しんだことは力んだ手足やこわばった口元を見たらわかった。「もうがんばらなくていいよ」と母は声をかけたけど、必死に耐えて待っていたと聞いた。ミシェはいつも私の帰りを待ってくれていた。この日は朝から嫌な予感がしていたので、出かけるのなんて迷わずやめれば良かったと、今もたまに思う。
ふとしたとき未だに泣いてしまう。
人生の半分くらい誰より近くで過ごした存在だから、思い浮かべるといつも温かくて、あの表情やにおいや鳴き声をいつでもかんじることができる。なんて可愛くて尊いんだろう。存在が大きすぎて涙が出る。
双子の兄弟 トムはというと、すっかり老猫になってしまってあまり元気じゃないけど、のんびり暮らしています。
いつ見てもほんとうにかわいいね
ミシェルが死んでしまってから
トムはいつもなにか待っていて、家じゅう歩き回ってずっと探しているみたいだった。
生きてたときはミシェルの分まで奪って食べたおやつも、お供えされた分は絶対に手をつけなかった。
それもとうとう諦めたように見えた頃、
玉手箱を開けたように急に年老いた。
家の中を歩き回るのも、遠吠えのように鳴くのもある日パッタリやめて、ミシェに供えられたおやつも全部たいらげて独り占めするようになった。
当たり前だけど、ねこにも子供の頃や若かった頃とは違う、老いた顔がある。ねこと暮らしてみると、その変化をよく実感させられる。
ミシェの生涯に寄り添えてうれしかったし、それは私の人生の半分だった。これからはこの先が追い越して、いない時間が長くなっていく。実家で暮らすトムにもあと何回会えるかわからない。ときどき自分の部屋に帰ると、名前を呼んでみる。まだどこか隅っこにミシェが隠れているような気がする。2匹が夜中に追いかけっこする足音が聞こえてきそうだけど、トムももう走ったりしない。
そのうちまた縁があれば猫を迎えたい。
行き場のない猫に出会ったとき、ミシェルとトムみたいに私を気に入ってくれればうちに住んで欲しい。お願いだから世界中の猫が幸せになって欲しい。2匹を見ていたら本気でそうやって願うような猫好きになっていた。
犬だってそりゃきっと可愛い。一緒に暮らせばもっと好きになる。私はたぶんかなりの動物好きで、子供の頃に思ったような自分のムツゴロウ王国を建国する夢は叶わなかったけど、岩井家ではトムが心地良く過ごせれば十分ユートピアだ。
とにかく私の経験からすると、猫との生活はいいですよ。もしミシェに聞いてみても、人間との日々もわるくないですよ、と教えてくれるんじゃないかと自信がある。
ミシェル!ミシェ!ミショ!みそ!みそかつ!みーちゃん!あまりに可愛くて色んなあだ名つけちゃっても、ミシェのことを呼んでいればちゃんと返事してくれた。
優しくて賢くて頑固で慎重でシャイで気高くてつよいねこ。
ずっとずっとだいすき!
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