パーソンズ直伝 コロナ禍でのデザイン制作 -Design under Quarantine-
コロナの世界最大の爆心地NYより、依然として買い物にしか外へ出られない隔離生活(Quarantine)の中お届けしております。ちょうど本日、無事(?)に2年間のParsons School of Designの美術学修士(MFA)を修了しました。
オンラインに切り替わった学校生活
コロナ以降の生活や、卒業して思うことなど、またどこかで綴りたいと思いますが、とにかくデザインスクールの学生にとって大変だったのは、
コロナ以降、どうアウトプットを制作するか?でした。
外へ出てユーザー観察をしたり、カフェでインタビューをしたり、ユーザー体験の映像を撮ったり、学校の3Dプリンタや工作機械を使ってプロトタイプを作ったりと、多くのデザイン活動ができなくなった状況で、修士研究の大きな方向転換を余儀なくされた生徒もたくさんいました。
そんな中、毎日のように教授陣と全生徒がzoomで対策を話し合いながら、今年、私のいるパーソンズのDesign and Technology学科が取った対策は以下の2点。
1. 最終的な美しい完成品ではなく、世に問うべきコンセプトのプロトタイプを家でできる範囲で物語る・可視化すること。
2. 文筆、画像、写真、映像にこだわってコンセプトをアウトプットし、オンラインで全世界に共有可能な状態にすること。
すなわち、3Dプリンタでモノを作成しようとしていた生徒や、身体的なパフォーマンスをしようとしていた生徒も、家で代替できるプロトタイプを模索しつつ、その背景にある思いや狙いを言語化・文脈化・可視化することが求められ、最終的に全ての生徒が写真やZINE、映像、webインタラクション等、オンラインで見れる形で卒業作品にまとめました。(オンライン展示はこちら)
今年はzoomのバーチャル背景で揃えた生徒のフォトロール
今回の記事では、そうした状況下で、パーソンズの生徒が苦しみながら試行錯誤した、どうデザイン研究・制作を家で実践するか?という困難について、生徒みんなで集めた、家での制作に役立つツールを紹介します。
MIT Media Labの中垣くんもメディアラボが閉鎖になり、どうやってHCIの研究機能を家に移すかということで試行錯誤をしていましたが、この記事はそのデザイン版的な感じ。
#homelabに対抗するなら 、 #homestudio 的な感じ?
1. ブレスト・リサーチをする for Stay Home
リモートでのzoom x コラボツールでの複数人の共創ワークは自分もまだやり方を模索中です。アメリカで仕事もしてますが、日本同様MURAL、Miro、Google Slide/Forms、Slack、Figmaなどの定番ツールを使っています。
無料
SpatialChatなど、新しい共創ツールは今後もどんどん出てくるだろう一方、個人的には、家にいる時間を生かしてじっくりデスクトップリサーチする(ニュース、統計、本、過去の論文等)のも重要だと思っています。
2. UIモックアップを作る for Stay Home
こんなやつ。
アプリやWebの画面というのは利用者への見え方、体験の伝え方として分かりやすく、パーソンズでも多くの生徒がUI的なアウトプットを模索しました。
UX/UIデザイナーにはお馴染みのUIモックアップですが、FacebookのDiverse Handsは様々な人種のダイバーシティが考慮されていて好き。
これに、Figma等のデザインツールでUIデザインを載せればよい。コードが書けるならhtmlやReactで動くモックアップを作ってもよいだろう。
無料
有料 ($9)
有料 ($18-24 per device)
3. 写真/ビデオを作る for Stay Home
こういうのをお家で。
言語や思い、抽象的な概念を最終的に人に伝えるためには、写真やビデオの形にすることが必要となってくる。
3.1. 家で撮る
カメラ
プロトタイプを可視化するということなら、今もうスマホでも十分。iPhoneでHD, 4K, 60fpsも撮影可能。
照明・スタジオ
こんなん。ちょっとDIYするだけでチープな写真を脱することができる。
ライトボックスを自作する ($)
買ったってそんなに高くない ($$)
家を本格的にフォトスタジオ化したっていい ($$)
マイク
こだわりだしたらキリがないので、お手頃な範囲で。($$)
スタビライザ
テーブルトライポッドや、自立型も安く手に入る ($10)
背景・セット
こんなん。英語ではバックドロップ。
アメリカの部屋は日本より広いので置けなくはないがこれは頑張りすぎ?
Spoonflowerpngやjpgからファブリックやバックドロップを作ってくれるサービス。
日本に同様のサービスがあるかは未調査。
3.2. PCの画面をキャプチャする
こんなやつ。
作ったUIの画面遷移を動画にしたり、オンラインインタビューを記録したりとなにげに登場機会は多い。zoomでもできるけど、PC画面とインカメラ両方を同時に撮れるScreenFlowとかはユーザーテストの動画撮るのに便利。
無料
QuickTime Player (*Mac)
Inbuilt screen recording ( ‘Windows’ + G ) (*Win)
有料
3.3. ポストプロダクション / 撮った映像を加工する
映像編集
自分は映像の専門では無いが、体験やコンセプトを物語るための映像作りはデザイナーにとってほぼ必須知識になってきているように感じる。Youtuberの方が映像編集の仕方なんかを教えてくれる動画なんかも今はあるので、独学で作りながらやってみよう。
自分はドラフトレベルはiMovie(一番さくっと作れる)、本気の時はAfterEffectsをよく使う。他にも以下のものがある。
無料
30日無料
有料
iOS/Android向け
映像制作に役立つ無料プラグイン
for AfterEffects
for Premiere
音声編集
音声も、動画に効果音をつけたり、英語で映像にナレーションをつける時など登場頻度は高い。ナレーションも今はAIに喋らせて無料で作れる便利な時代になりました。google翻訳とtext to speech無かったら卒業できなかったレベル。
無料で実現するテクニック
1. Googleのtext to speechで音声をAIに喋らせる
2. Audacity、もしくはMacのVoice Memoを起動する
3. クリアな音声を保存するため、Soundflowerを出力とし、PCの内部出力として保存
4. 2のソフトに保存された音声の該当部分をトリミングし、AfterEffects等の動画に載せる
個人的にはめちゃくちゃお世話になった必須テクニック。
有料 ($8.25/month student discount)
写真素材(ストックフォト)
Unsplash有名だけど、検索が強い(気がする)Pexelsも良い。日本語だとぱくたそ等あるけど、いかにも素材使いました感が出るので良い写真を徹底的に探すことと、トリミングなどの加工も重要です。
無料
動画素材(フッテージ)
動画素材サイトも無料のものも多いけど、こちらもいかにも素材感出るので使い過ぎは禁物。自分で撮った素材に勝るものはない。
無料
https://www.pexels.com/videos/
有料 ($25/month)
音声/SE素材
これも動画素材と同じく、使い過ぎに注意。日本語の無料SEサイトも検索すればたくさん出てきます。
無料
有料
4. クリエイティブコーディングをする for Stay Home
コーディングは撮影等のワークが無く、PCがあればできるので別にコロナ関係ないような気もするが、逆に言えば家で集中して制作するにはもってこいなので、インタラクティブなwebエクスペリエンスをざくっと作れるとそれは武器になる。
例えばデータビジュアライゼーションなんかは、大量のデータをイラレ等のグラフィックソフトで1つ1つ描画するよりも、d3.jsでさくっとコード書いちゃった方が早いので、デザイナーだからプログラミングはしない、なんて線引きはせずに、やれるなら得意なツールを使ったほうが良い。以下は自分がパーソンズ在籍中によく使ったものを上げておく。
- d3.js : データビジュアライゼーション
- p5.js : クリエイティブコーディング(図形・画像・音声操作等々)
- jonney-five : フィジカルコンピューティング(Arduino等を使う)
- three.js : 3D, VR, AR
- ml5.js : クリエイターのためのマシンラーニング
GANとかも簡単にwebで触って試せる時代になったので、今の学生は本当に可能性しかない。
他にもパブリックAPIのリストは以下
5. 良いドキュメンテーションの例
これらのテクニックを使って作られた良い見せ方とは、こういうことさ。
以下は他のアメリカ人の生徒や教授がお勧めしてたもの。
写真 x 文章(Online Magazine, Blog, Zine)
プロトタイプ映像(家録り可能な範囲で)
映像(社会批評・スペキュラティブデザイン)
音声系プロジェクト
データビジュアライゼーションプロジェクト
ブランド・パッケージデザイン
VR系プロジェクト
6. おわりに
スペキュラティブデザインの始祖であるダン&レイビーに会いたかったという理由でパーソンズに来て以来、スペキュラティブや都市・サービスといった大きな視野からグラフィックまで、様々な粒度の「デザイン」と出会ったのが自分にとってのパーソンズの2年間でした。
色々な射程や粒度のデザインがあり、時代的にもビジネスや組織、教育やビジョンなど、何でもデザインと呼ばれ、誰でもデザイナーと名乗れる時代。
しかしそうした中でも、言説ではなく写真や映像で、キーワードだけではなくストーリーで可視化されなければ伝わらないので、デザイナーは人に最終的に伝え届けるプロフェッショナルである、という視座は変わらないと感じています。
まだまだNYはStay Homeが続きそうですが、引き続きおうちデザイナーの姿を模索していきたいと思います。