魯可
魯可は後漢の頃、徐州の下級役人の子として生まれた。幼い頃より嗅覚に優れ、三里も離れたところの果物の香りをかぎ分けることができた。十八歳のおり、深夜にとてつもない匂いを感じて寝床から飛び起きた。馨しいといえば馨しい、臭いといえば臭い、なんとも形容しがたい匂いが、天の彼方より漂ってくる。近くにあるものとも、遠くにあるものとも思われた。他の人間たちの嗅覚では感じ取れぬが、犬や猪などは魯可と同じようにこの異様な匂いをかぎ取って、山野を狂ったように疾駆した。やがて天が割れ、その狭間より青黒い龍が現れた。龍は腹を空かせ、王宮の柱ほどもある牙と牙のあいだから、鉛のように輝く涎を垂らしていた。どうやら異様な匂いの根元は、その涎であった。青龍は目を血走らせながら長江へとその身体を沈め、縦横無尽に魚どもを貪った。龍の唾液が流れ出し、大河と混じり合った。それから数年は龍の唾液の匂いがうつり、長江の魚が大変不味かったという。
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