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【いわし園芸】きのこと大きな鳥

いや、まいったね暑くてね。でもかき氷たべて頑張ってますよ。noteブログシティのかたすみにある、いわし園芸です。ごぶさたですね。

今日はちょっと趣向をかえて、きのこでも見てもらおうと思って。ながめていると、なんだか不思議で、飽きないもんですよ、きのこ。そういえば、今日きた女の子もなんだか不思議な話をしてくれたなあ。まあ、それはあとにとっといて、まずはこちら。

夕方は逢魔が時って、いいますよね。いままでいたものがいなくなったり、いなくなったものが現れたり、そういうことがおこるんです。

少し歩くと、急に視界が開けたんです。道の両脇を取り囲んでいた、青黒い照葉樹がとだえて、正円の広場が現れました。差し込む夕暮れの穏やかな橙色の光が、朔ちゃんの頬を薄く照らしていました。瞬きをするのも忘れて見入ってしまう、うつくしい朔ちゃんの横顔。昼と夜とのあわいの時間をとてもさびしく感じました。

広場の中心には、大きな鳥のモニュメントが佇んでいました。かつて、そこに生息していた鳥。人間がすべて殺してしまった。ダチョウに似て、でも遥かに大きく、ときにその体高は3メートルにも迫るのです。「モア」と呼ばれた鳥。その巨体ゆえ飛ぶことは叶わず、たくましい二本の脚で、地表を駆けていたのです。勇壮な姿は、今では人間の作った銅像に成り果てているのです。人間は自分たちで滅ぼした後に、自分たちでその似姿を作り上げ、追憶にひたるのです。

樹々はモアの銅像を取り囲んでいます。静かな感情をその幹の奥に隠しています。それはその大きな鳥への畏怖だと思いました。 私と朔ちゃんは、円の内側に、ゆっくりと足を踏み入れました。亡き巨鳥を取り囲むものたちが、にわかにざわめきはじめました。それ以上、近寄るなと言っているのです。でも、私と朔ちゃんは進まなければいけないのです。鳥を葬って、冷たい金属の体を与えたのと同じ悪意から、私と朔ちゃんは逃げてきたのです。ここで歩みを止めてしまえば、捕らえられて、鳥と同じ運命をたどることになります。

あの人たちは、自分たちの都合のいいように記憶を組み変えて、私と朔ちゃんを、閉じ込めてしまうと思います。鳥の庭へ足を踏み入れることが、どんなに不敬なことであっても、私たちはそこを通らなくてはならない。

私と朔ちゃんの足元からのびた影が、鳥の像を横ぎって、広場の反対側へ伸びていきます。 ここに存在しているのは、私たちふたりだけです。あたりをとりまく樹々は、けして広場には入ってきません。朔ちゃんがささやくのです。

 「樹々は、自分たちの影でこの空間を汚すようなことはしないんだ。彼らにとって、ここはとても大切な場所のようだよ」

 朔ちゃんと私は、ふたりでとても恐ろしいことをしたのだという事実を、あらためて思い出しました。罪深い私たちは、鳥の眠る大地に足を踏み入れ、さらには影をも持ち込んだんです。

朔ちゃんが、私の心を落ち着けようと、そっと手をにぎってくれました。不意に、朔ちゃんのにおいを、そしてまだ朔ちゃんの体に残っている私自身のにおいを感じました。 樹々は、ただ私たちを見つめていました。私は、まるで、深い海の底にたどり着いたかのような錯覚を覚えました。

朔ちゃんは、しばらくつないだ指をそっとほどいて、こんどは私の頬にふれようとしました。私はその人さし指の爪のあいだに私の血がこべりついていることに気づきました。 私が流した血。私は朔ちゃんに会えて良かったと思っているし、朔ちゃんだってそう言ってくれたのです。

そのときです。夕闇に突き出した鳥の像が、ゆっくりと私たちのほうに振り向いたのです。まっくろな金属の瞳が、ぎょろりと私たちを眺めていました。まばたきをしました。

鳥が目覚めたのです。私と朔ちゃんが目覚めさせたのです。沈黙を守っていた樹々たちが、枝を揺らしはじめました。無数の腕が絡み合い、祈っているように見えました。

よみがえった鳥は、大きな声で鳴いたそうです。気の遠くなるような静寂の淵から、声がやって来ました。それは、彼女がいままで聞いたことのある、どの鳥の声とも違っていたそうですよ。

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鰯崎 友
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