野球×統計は最強のバッテリーである
書評『野球×統計は最強のバッテリーである - セイバーメトリクスとトラッキングの世界』 データスタジアム株式会社 中公新書 2015
大谷翔平のMLB初打席はライト前ヒット。幸先のよいスタートを切ったといえるだろう。
ところで、MLBでは球場に設置された複数のカメラでフィールドを撮影、そこで起こるすべての状況をリアルタイムで半自動的に分析し、データ化している。その結果これまでの常識を覆す色々なことが分かるようになった。
本書では、MLBで行われているデータ解析の一端にふれることができる。MLBで活躍する、ダルビッシュ、田中、岩隈などのストレートを解析した部分が面白かった。2015年の本なので、やや情報が古くなっているところもあるが、野球好きの方には是非おすすめしたい本だ。
精緻なデータ収集によって分かったことについて、有名な例をあげておこう。投手が投げる「ストレート(フォーシーム)」はすべて「シュート系の変化球」である。また、その変化は個々の投手によって千差万別で、今まで感覚的に言われていた「キレ」、同じ球速でも奪三振率に差が発生したり、被本塁打に大きな違いが現れることを理論的に解説できるようになっている。その結果、若い投手は自身の球質の特性から、最も効果的な変化球を選択して習得する、というフィードバックが起こっている。
また、打者においてもデータは非常に有効に活用されている。昨年MLBでの本塁打数が飛躍的に増加し、「フライボール・レボリューション」元年と称された。これまでバッティングは、ライナー性の打球を飛ばすことが最良とされてきた。しかし、ビッグデータから「フライボールを狙って打ったほうが打撃成績が向上する」ことが導かれ、各打者がこぞってその角度を狙ってバットを振るようになったのである。守備においても各打者の打球方向が統計化され、特定の打者に対しては一、二塁間にファースト、セカンド、ショート、ライトを配置するというような極端な守備シフトを敷く局面も現れている。
未だに「日本の野球は緻密で、アメリカのベースボールは力に頼った雑なもの」ということを言う人がいるが、ぜんぜん違う。統計学を効果的に取り入れたMLBの戦術の有効性は、日本の野球のそれをはるかに凌駕している。統計的には盗塁やバントは限られた特定のケースをのぞき、概ね得点期待値を低下させるが、日本の野球はそれを多用する。端的に言ってナンセンスだ。しかし、目下開催中の選抜高校野球で、滋賀の膳所高校がデータにもとづいた大胆な守備シフトを敷いたように、遅ればせながら日本でも戦術の革新は起きようとしている。
write by 鰯崎 友