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最後はハートだよ、熱意なんだよ。
小・中・高と吹奏楽、
そして大学では2年間ジャズ研究会に所属し、
音楽と共にあった私の学生生活。
少しでも上手くなりたくて
コンクールでいい成績を残したくて
何よりいい演奏をして見ている人に喜んで欲しくて
学校の顧問の先生、先輩・プロのプレイヤー
本当にいろんな人に
音楽を教えてもらった。
その14年もの音楽生活の中で、
一番印象に残ってるのが
プロトロンボーンプレーヤー片岡雄三さんから
教えてもらったことだ。
*
高校の時にアメリカのテーマパークで見た
ストリートライブ。
そこで演奏していたジャズベースに魅了され、
ジャズに憧れを持った。
それまでは吹奏楽をずっとやっていたが、
ジャンルを変えて
大学1年生の時にジャズ研究会に入部した。
私の所属していたジャズ研は、
ビックバンドジャズの王様、
カウントベイシー楽団の楽曲を
演奏するバンドだった。
エアコンもない部室で夏は汗だくになりながら、
冬は寒さに震えながらベースを弾いていた。
大学2年の時には、有難いことに
サークルの中でも上級者で
構成されるバンドに参加することになった。
*
当時、所属していたバンドでは
学生ビックバンドの甲子園ともいえる大会
「山野ビックバンドジャズコンテスト」に
出場するべく、予選大会に向けて
練習を重ねていた。
少しでも上手くなりたい、
何より予選を勝ち抜いて本戦にいきたいという思いで
プロトロンボーンプレイヤーの
片岡雄三さんにレッスンをお願いすることになった。
*
片岡さんは
日本のジャズ界を牽引する
プロトロンボーンプレーヤー
スローテンポの曲では透き通るような音色で
アップテンポのナンバーでは
激しく情熱的な演奏で観客を魅了する。
まるで言葉を喋るように自在に
トロンボーンを奏でる。
最初に演奏を聴いたときに
鳥肌がたったことは今でも忘れない。
*
何度かレッスンをしていただき、
大会をいよいよ1週間後に控えた最後のレッスン。
私は、いつものレッスン通り
演奏のテクニックのアドバイスがもらえると
思っていた。
だが、その日片岡さんが
ひたすら口にしてた言葉はこれだった。
「最後はね、(自分の胸のあたりに手を置きながら)
ここだよ。ハート。熱意だよ。
人を動かすのはここなんだよ。」
片岡さんはそのあと
「今はどういうことかわからないかもしれない
けど、いつかわかる日が来るから」
笑いながらそう言った。
正直、当時の私は
どういうことなのかわからなかった。
大会目前、少しでも点数をあげるために、
細かい修正やテクニック、スキル的なことを
教えて欲しいというのが当時の私の本心だった。
*
迎えた予選大会。結果は予選最下位。
何かが足りなかった。やるせない気持ちだった。
悔しくて、本選大会を見に行った。
そして上位校のバンドを見て、
当時の私に足りてなかったもの、
それは「ハート・熱意」だったということに
気づいた。
もちろん上位校のバンドの楽器演奏のスキルが
高いのは言うまでもないが、
それに加えて上位校の演奏はどれも本人たちの
「賞が取りたい」「お客様にいいものを届けたい」
そして何より
「自分たちは音楽が好きで、愛してる!」
という想いがこもっていて、熱気を帯びていた。
東京国際フォーラムで聞いていた私は
鳥肌が自然と立っていた。
そして気づいた。
あぁ私はそこまでの気持ちを持って
演奏できていなかったのだなぁ…と。
人の熱意が人の心を動かす。
片岡さんのいう、「最後はハートだよ、熱意だよ」という言葉が突き刺さった時だった。
*
社会人となり、さまざまな人の前で
プレゼンや発表をする機会をいただく。
その時に思い出すのが、この片岡さんの言葉だ。
たくさんの観客の心を動かす
「熱意を持って届ける」
それはどんな時も共通だと思う。
片岡さん、
大切なことを教えてくれてありがとうございます。
いつかまた再び会えたら、お礼を伝えられますように。