いたばしジジイ・ババア列伝
バブル崩壊後に生まれた僕らの世代は、
SNSの発展とそれを取り巻く様々な
規制の中で育ってきた、かなりカオスな
世代となったと思う。
地域コミュニティの力が喪失する前の
最後の世代と言い換えてみよう。
僕が育った地域にはまだ駄菓子屋があり、
公園でキャッチボールができて、
土手にエロ本が捨てられていたりした。
ギリギリで昭和の香りが残っていた。
その影響だろうか。
ちょっとおかしなジジイやババアを
見かけることが割とあった。
昨今のSNSに晒されるような、
そんなおかしさではなくて、
もっとカラッとあからさまに
"おかしい"人たちであった。
ここでは、僕の生まれ育った板橋区にいた、
そんな"おかしい"ジジイとババアを紹介する。
エントリーNo.1 赤帽子
やはりもっとも僕が衝撃を受けたのは
このジジイ、通称 "赤帽子" である。
僕の上がった中学にはだいたい
四つの小学校を卒業した子供達で
構成されていた。治安の良い小学校も
あれば、すこし荒れてる小学校も。
そんな全部がごった煮のように
混ぜ合わされるから中学校は面白かった。
一番荒れていた小学校、通称"蓮ニ"
このメンバーはホームレスを揶揄って
遊んでいたり、スプレーで落書きしたり、
殺虫剤を噴射しながら火をつけて
バーナーのようにして、その辺の物を
適当に炙ったりと、やりたい放題の
悪党集団であった。
ある日、そのメンバーから
「今日は赤帽子、行ってみよう」
と屈託なく誘われた。
何一つわからないまま、みんなで
自転車を漕いで行く。
新河岸川のある橋の上で止まった。
自転車に乗ったまま、蓮ニの奴らが
「赤帽子出てこいゴラァ」
「ボケが早く死ね」
「家壊すぞ」
などと口々に言う。おそるおそる橋の下を
見てみると、ブルーシートでできた
小さなテントのような物がある…。
と、思ったのも束の間、とんでもない
勢いで人がそこから飛び出してきた。
確かに赤い帽子を被っている。
これが"赤帽子"…。
なんて思っていたら、
「テメェらそこ動くな!!!!!
ふざけてんじゃj@gjo@!!!」
とんでもないボリュームでやっと
日本語とわかるような言葉を発して、
ハシゴを登ってこっちに迫ってくる。
僕らはちりぢりになって逃げた。
後ろを見ると、いつのまにか自転車に
乗っており、恐ろしい速さで
追いかけてくる。角という角を曲がって
とにかく逃げた。
幸いにも、僕の方には追ってこなかった。
その後、みんなも無事に逃れた。
再集合して、赤帽子の詳細を聞いた。
・新河岸川に生息するホームレス
・赤い帽子を被っているから赤帽子
・蓮ニの奴が一度捕まって学校に
殴り込みにきたらしい
・たまに青い帽子も被っている
その後、僕は赤帽子を訪れることは
無かった。数年後に訪れた時には
もうテントもどきは無くなっていた。
赤帽子のその後は不明である。
エントリーNo.2 ニコニコチャリジジイ
小学校時代、よく近くの公園でみんなで
遊んでいた時に出没した。
とにかくニコニコしながら
歩いているのと変わらない速度で僕らの
周りをゆっくりチャリ漕ぎながら旋回する。
「元気してるかぁ〜!!!」
「あっはっはっは!!」
「またなぁ〜!!!」
と3つの言葉だけをいつも投げかけて
去っていく。ありえないほどニコニコで。
後から思い返すと何かキメてたのかも。
それだけの全く無害なジジイだったのだが、
なぜか僕らはこのジジイが現れたら
罵声を浴びせかけるというのが風習と
なっていた。
「消えろ!!!」
「アホか!!!」
「とっとと帰れバカが!!」
僕らは思いつく罵詈雑言をジジイにぶつける。
中には遊戯王カードを投げつける者も。
本当に、何故こんなことをしていたのか
全くもって訳がわからない。
しかしながらジジイは心からの笑顔を
浮かべながらゆっくりと旋回し、
またどこかへ行った。
よほど人との交流に飢えていたのか、
ジジイは罵詈雑言がある方が多めに
旋回をしていた。みんなが無視を決め込んで
いた時には少し寂しそうにすぐ消えた。
僕らも少し切なくなった。
その後の詳細は全く不明である。
エントリーNo.3 赤ばあさん
中学校二年生〜三年生ころに生息が
確認される。スキンヘッドに近い髪型で、
とにかく肌が赤い。背がわりと高い。
男性か女性か、おじさんかおばさんか、
近寄ってみないとあまりわからない。
おそらくおばさん。
美輪明宏をホームレスに転落させたような
風体の人物であった。
体型、顔では判断できず、
とにかく赤くメイクをしていたため、
なんとなく女だろうという共通認識があった。
僕らは赤ばあさんと呼んでいた。
このばあさんは西台駅近辺を生息地として、
近隣のドラッグストアに入店しては
店内のテスターというテスターを全て
使用し、また次のドラッグストアに
行くというムーヴを繰り返していた。
そうして謎の赤さを作り出していた。
おそらく、なんらかの妖怪だろう。
また、荒川で小銭で身体を売っているという
噂もあったが、真偽のほどは不明。
僕らも分別がつき始めていたし、
無害だったので特に揶揄ったりは
しなかったが、目撃談を話し合っていた。
高校卒業くらいまでは各地の
ドラッグストアで目撃されていたが、
その後の行方は不明。
PS.番外編 西成猫ババア
大阪にヒッチハイクで行った時、
西成を歩いていたら猫を眺める
ババアとエンカウントした。
猫がぽてっと寝てて可愛かったので
僕もしばらくババアと眺めた。
唐突にババアは
「酒、飲めるか。買ぅちゃる。」
と言って、自販機で80円のプラカップ酒を
僕に手渡してくれた。なお、商品表示は無く、
黒マジックでデカデカと「酒」とだけ
書かれていてた。
恐る恐る飲んでお礼を言うと、
「猫はえぇ…人と違って裏切らん…」
と言って、路地を歩いて消えた。
僕は猫を見ながらもう一度酒を飲んだ。