司法試験(司法試験予備試験)における民法の勉強法・答案の書き方

最終更新日時:2024年8月16日12時40分(質問箱問い合わせの反映)

こんにちは!囚われの焼酎と申します。私は令和5年度の司法試験予備試験合格し、令和6年度の司法試験の結果を待っているところです。

司法試験(司法試験予備試験を含む。以下同じ。)において、範囲が広く、憲法と並んで「捨て」の科目とされている民法の答案の書き方について、一応の方法論をお示しできればと思って筆を執っております。

私がどこの馬の骨かも分からないとnoteの信憑性も減殺されてしまうかもしれないので、私と民法との関係について打ち明けておくと(恋人?)、予備試験の民法短答は30点(満点)、民法論文はA、司法試験の民法短答は71点です。Twitterには私より成績が良い人もゴロゴロいるのでお恥ずかしいのですが、一応語る資格はあるんじゃないかといったところです。

よろしくお願いいたします。



日常の学習法

短答教材の優位性

※以下の内容は、令和6年の予備試験論文式試験を受験予定の方からすると「今更そんなこと言うなよ」と思われそうなので読み飛ばすことをおすすめします。

民法の学習が難しい大きな理由のひとつは、範囲の広さ、内容の膨大さにあります。民法の内容をすべて一冊で網羅する本は、潮見佳男『民法(全)』など数冊程度しかなく、それらの内容も、とりわけ司法試験を念頭に置くとレベルとしてやや心もとないところです。

そこで、最良のインプット教材は何かということですが、これが短答式問題集であると個人的には思います。短答式試験までだいぶ時間が空いている人に対して短答式試験の問題を解けというのはやや非現実的だと思うので、そこまではやらなくていいと思います。ただ、短答式問題集が実はインプットの教材であるという意識を持って、後述する判例六法等への一元化を実践してみてください。

予備校の講義等との棲み分けについて一応触れておくと、論文式試験を受けるときの一応完成された知識水準を100としたときに、0から30くらいまでは予備校等のインプット授業で補っていただく必要がありますが、それから70くらいまでは短答式問題集の演習を通じてインプットするべきです(残りは、純粋なインプットではありませんが、答練や過去問演習等のアウトプットを通じて少しずつ100まで積み上がっていくイメージです。)。

短答式過去問で出てきた判例、条文解釈、事例へのあてはめを頭にストックしていき、必要であれば判例六法に書き込みます。

※読み飛ばし推奨ここまで。

判例六法の偉大さ

判例六法は個人的に神教材だと思います(私は判例六法を愛用していたため、以下で判例六法を礼賛しますが、他の教材を否定する意図ではないです。択一六法とか逐条テキストとかでもよいので、条文ベースで一元化学習できる教材があるといいと思います。)。予備試験の学習開始から司法試験の受験終了までこいつを手放した日はありませんでした。ときたま不親切や不正確な判例の要約を見かけることもないではないのですが、民法は憲法や刑訴ほど判例の射程を深く聞かれることは(たぶん)多くないので、浅く広く判例を抑えておくことが重要です。

判例六法の余白は非常に小さいので本当に限られた情報しか書けなくなってしまうのですが、だからといってまとめノートを別に用意するのは個人的にはあまりおすすめできません。2冊教材があると面倒ですし(え)、余白が広いと短答式問題集の解説をすべて写経する等の非効率な勉強にかえって至りがちですし、条文と補足情報を同時に一つの視野にいれることに意味があるからです。SARASAの細めの芯を使えば小さい字で書き込めると思うので、極力判例六法にまとめることをおすすめします。択一六法や逐条テキストを使えば余白が狭いという問題はかなり緩和されるかもしれません。

上記の勉強を論文頻出の範囲(意思表示の瑕疵、時効、物権、債権などなど)で行えば、インプットとして基本書を読む必要はないと個人的には思います。基本書を読む必要があるのは、以下のようなときに限られるでしょう。すなわち、法定地上権の成否等、理屈が錯綜しており、場当たり的に問題集を解いてもほとんど意味がないといえるような問題に接している場合において、辞書的に参照するときくらいです(これは短答式の演習法に関する一般論と同じですので、ここではこれ以上立ち入りません。)。

論文式の過去問を解いたときも、判例六法に書き込むという基本的な流れは変わりません。誤解を恐れずに言えば、民法論文力=短答知識+アウトプット力です。

民法論文で正解筋が分からないときの主要な理由としては、使うべき条文が使えていなかった(事実の誘導に気づけなかった)とか、判例を見落としていたせいで異なる筋にいってしまい、詰んだ(例えば、借地上の建物の賃貸は土地転貸にあたらないとする大判昭8.12.11は、知るか知らないかで事案の解決の筋が大きく変わりうるものです。)とかが挙げられます。それぞれ、復習の際には、使えなかった条文をマークして周辺の条文や関連判例、その条文が問題となる典型事例を参照するとか、見落としていた判例及び関連判例を読む(上記の例では、612条2項に関係する判例を総覧するなど)とかの復習が有効で、判例六法が役に立つと思います。

日常学習における復習としては、短答式試験前はもちろんのこと、論文式試験前であっても、条文(判例)素読が必須です。

条文の偉大さ

ここまで読んでくださった方ならわかると思うのですが、民法を解くポイントは、1に条文、2に条文、34が判例で5が条文です。

めちゃくちゃ根性論みたいになってしまうのですが、そもそも実体法とは要件効果の束だという意識を頭に叩き込むことが大事です。とりわけ民法の多くの条文は要件と効果がわかりやすい形で載っています。たとえば、民法192条は、

取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する

と定めるところ、

要件:取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者が、善意であり、かつ、過失がないとき
効果:即時にその動産について行使する権利を取得する

と解釈できます。こういう感覚をすべての条文に対してもつことが重要です。

やや乱暴な一般化ではありますが、個人的には民法における論証の重要性は他科目におけるそれに比べるとやや小さいと思います。刑訴法等に比べて多く改正されてきた民法においては、本来であれば条文の組み合わせだけで規範定立できるのが原則であって、論証はむしろ例外ともいうべき点であるからです。

少なくとも、長文の論証を大展開する場面はほぼないと感じます。不動産の二重譲渡において、たとえば伊藤塾の論証だと「他人物売買(561条)は債権的には有効であるが物権的には無効であり……」というくだりがあると思います。しかし、債務不履行責任が問題になっている設問であればともかく、不動産物権変動のみが問題になっている設問であれば、他人物売買が債権的に有効であるというくだりは完全に不要です(端的に無権利者からの譲受人だから無権利者だと述べればよい。)。このように、民法において論証は、条文がないときに、必要最小限度で展開するという、補充性の気持ち(?)を強くもっておきたいところです。

論証と向き合うときも、その論証が条文上のどこの文言(要件)に対応しているのかを常に意識してください。たとえば、占有改定では即時取得が認められない一方、指図による占有移転では即時取得が認められるとするのが判例ですが、どこの要件に関するものかパッと出てきますか。そうですね、これは「占有を始めた」という要件にかかわります。それに対して、立木の伐採や相続による即時取得が認められないのは「取引行為」という要件にかかわります。このように、論証が条文のどの文言に関する争いかを意識するだけで、答案の書き方(特に問題提起)が簡潔明瞭になると思います。(だから私は刑訴法はクソだと常日頃から言ってるんですよね、どこから出てきたんですか、再逮捕再勾留禁止の原則というのは、違法収集証拠排除法則とかいうのは。)

問題を解くときも、当たり前ですが使える条文があるかということをまず第一に意識してほしいと思います。契約締結上の過失などの論点は、もちろん重要ではあるのですが、個人的には条文から遊離した学者の知的遊戯感がやや否めず、やはり付随義務(契約責任:415条)か不法行為(709条)の前提となる義務として論じれば足りるような気がします。少なくとも司法試験レベルでは、その理解で足りると思います。

形式論の大切さ

実証的な根拠があるわけではないのですが、民法は他の科目と比べても特に形式面が重視されていると思います。民法では登場人物らの利害対立が比較的明瞭であり、どの事実がどの当事者にとって有利(不利)かは、とりわけ要件事実の勉強が進んでいる人には分かりやすいです。そのため、「問題の文の事実は全部使おう」と意識している受験生は、だいたいまともな実質論を書きます。たとえば、今年(令和6年)の設問1(2)で留置権の成否については実質論で見れば両論ありうるところだと思います。
ですから、意外かもしれませんが、民法は実質論で差がつくことはあまりありません(もちろん、判例があるのであれば、それに整合的な結論を出したほうが心象はいいかもしれませんが。)。むしろ形式面、法律構成レベルで差がつくと感じられるところです。

形式論といえば、答案構成とも関連しますが、当事者の生の声は馬鹿にできません。たとえば、被告が問題文のなかで「契約は有効であるが、実は〇〇であることが分かったから、代金は払いたくない」などと言っている事案では、「実は……分かった」という言葉に引きずられて錯誤等による意思表示の取消しを検討しても意味がない可能性が高いです。取消しの効果は契約の遡及的無効(121条)になるため、「契約は有効である」という被告の言い分と食い違うおそれがあるからです。もちろん、これも問題文の誘導次第なので、100%そうなるとまではいえませんが……。

蛇足ですが、令和5年予備試験民法も、当事者の生の声から法的主張を抽出することが比較的ストレートに求められていた問題だったと思います。

過去問や答練、本番の問題の解き方

答案構成法

答案構成については、とにかく要件事実の構造に沿っていただくのが無難で汎用性が高いかと思います。

具体的な答案構成例については、下記の記事がきわめて明快な例を示してくれているため、そちらを参照いただければと思います。

削除されて発狂しました。復活したようです。

特に司法試験では反論を踏まえつつ論じることが求められますので、抗弁になりそうな主張を反論に回して争わせれば答案の形式としては綺麗になると思います。以下のリンクも参照してください。

https://meiji-law.jp/wp/wp-content/uploads/2019/09/e7834506262e7f70d31bfaf85c86fa3a.pdf

これは賛否両論あるところだと思うのですが、私は、自分の脳を民法モードにするため、必ず請求を訴訟物に引き直して書いていました。たとえば、最初に「請求①は甲土地の所有権に基づく返還請求権としての明渡請求権である。」とか「請求①はXY間の請負契約に基づく報酬請求権である。」とか書いていました。そこで争いない請求原因事実は先出しで網羅的に検討し、争いのある請求原因事実や抗弁事実を手厚く論じる(必要であればそのなかで三段論法をする)というイメージです。

その後は問題文の事実に従ってたんたんと篩い分けていくだけです。たとえば、土地明渡請求であれば、被告は原告の所有権を争いたいのか、被告の占有権原を主張したいのか、そういう話を全部「もっとも、Xは〇〇により甲土地の所有権を喪失したか」「もっとも、本件のYには甲土地の占有権原が認められるか」などの形で論点化していきましょう(こういう答案の書き方には異論もあると思いますが、試験戦略上汎用性が高い書き方ですし、私の経験から言っても大減点を食らうようなものではないと思います。)。

私の答案もご笑覧ください。
https://x.com/ius_in_re/status/1813793356176322668

例としては、以下のとおりです。これは、1が問題提起で、2が争いない要件の検討で、3からが本題のイメージです。

1. 請求①は、……(〇〇条)に基づく~権である。認められるか。
2. (1) (要件1)は、(簡潔な規範)であるところ、本件では(事実)であ(り、(評価)といえ)るから、(要件1)といえる。
(2) (要件2)は(簡潔な規範)であるところ、本件では(事実)であ(り、(評価)といえ)るから、(要件2)といえる。
3. (1)もっとも/しかし、本件では、(簡潔な事実の引用)であるから、(要件3)とはいえないのではないか。←多くの場合、抗弁事実の主張となる。
(2)(要件3)は、~~~~~をいうと解する。or(〇〇条)の趣旨は、~~~~~という点にある。よって、(要件3)は、~~~~~をいうと解する。
(3)本件では、(事実)である。よって、(評価)といえるから、(要件3)をみたす。(←必要があれば反対利益に言及してもよい)
(4)したがって、請求①は認められる/認められない。

ひらめきのうながし

上記で形式論の重要性に言及しました。しかし、問題によっては、当事者の名前の声がどういう法律構成を求めるものか判然としないことも多いです(まあ、当事者は法律の専門家ではないという建前なので、当たり前といえば当たり前なのですが。)。

そこで、どうやって法律構成の手がかりを見つければいいのか。これも最終的には基本的な事例にいっぱい触れて慣れていただくしかないのですが、コツとしては、「要件と効果との視線往復」であると考えます。

つまり、当事者としては(具体的な法的主張ではないにせよ)イイタイコトは何かしらあるわけですよね。そのため、当事者が求めたい法的効果から手段を探っていくのが良いわけです。たとえば、売買契約に基づく代金請求権に対しては、

①そもそも代金請求権がないと言いたいのか(意思表示の取消し、無効などなど?)
②代金請求権はあったが消滅したといいたいのか(弁済や相殺による消滅、債権譲渡等による帰属の変更?)
③代金請求権の存在は認めるがその行使に一定の制約があるといいたいのか(同時履行の抗弁?)

などの反論があります。上記は抗弁における「障害・消滅・阻止」の3類型を具体化したに過ぎませんが、一応の目安にはなると思います。

そのいずれも、原告が主張するとおりの請求権行使が認められないという意味では被告の主張になり得ます。しかしもちろん、明らかに要件を満たすはずがない法的主張を検討しても意味がありません。そこで次に問題文に視線を移し、目を皿にして何かしらの要件に引っかかりそうな事実の誘導がないのかを探すわけですね(これが「効果」から「要件」に視線を移すということです。)。たとえば、「YがXに対して〇〇を売った」という事実があれば、YはXに対する売買代金債権を用いて相殺するのかな?などと考えることができます。あるいは、「真実〇〇であったが、Yはそのことを知らなかった。」のような事実があれば、Yは錯誤取消しを主張するのかな?などと考えることができます。このような事実の誘導はそれなりに類型的であることが多いため、多くの事例に触れてきた人が有利になりがちです(私が後で演習書を用いた復習を勧めるのもそのためです。)。

そして、もし問題文をひと通り見たのに法的主張が思いつかないという場合は、争うべき効果を間違えている可能性があります。もう一度、原告の主張する権利を覆滅させるような法的効果が別にあるか検討してみてください(「要件」から「効果」への視線移動:再検討)。

模試や答練後の復習法

演習書の活用

模試の復習として知識の補充や解説の熟読などは当然有効です。判例六法への一元化が必要なのも既に述べたとおりです。

ここではやや時間に余裕がある人向けに、あえてやや変わり種(?)の勉強法を挙げておきたいです。それは、演習書の活用です。民法の問題が解けなかった理由として私はさきほど、使うべき条文を使えなかった、というものを挙げました。これは、より具体的に言うと、事実の誘導に気付けなかったということです。

そこで、(普段の学習で使ってももちろんよいのですが)模試や過去問で使えなかった条文があったときは、類題をロープラクティス等それなりに網羅性がある演習書で探しておき、なぜその事例でその条文が問題になるのか、どの事実が誘導になっているのかをもう一度確認しておくことが重要です。

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