舞台「私の恋人」-- 1.小日向文世さんについて
私の恋人
オフィス3〇〇公演
2019年9月8日
下北沢 本多劇場
のんさんの初舞台として話題になった「私の恋人」の千秋楽を観てきました。8月に東大和ハミングホールで行われたプレビュー公演に続いて2回目の鑑賞です。
先日、上田岳弘さんの原作について書いたのですが、今回漸く舞台の脚本も無事入手できて、それぞれよく読んでみたところ、台本のほうはしっかり3○○の台本として出来上がった全くの別物で、これと原作をあれこれ比較したり謎解きを試みようとするのは野暮だな、という結論に達しました。
なので、舞台「私の恋人」の感想を出演者に絞って書くことにしました。
まず小日向文世さんについて。
今回の舞台、真田丸の『秀吉』、アウトレイジの『片岡』と個人的に唸らされてばかりの小日向文世さんの芝居をついに生の舞台で見ることができたのが、私にとって最大の収穫でした。いや、実際には若い頃に何度も観ているのですが、当時はそれほど意識して観てはいなかったのです。
千秋楽のアフタートーク、渡辺さんが小日向さんに「本当に助けていただいた」と語っていたように、私もこの舞台の成功は彼の奮闘に負うところが大きかったと思います。時間や空間がめまぐるしく変わる、一見むちゃくちゃとも思える脚本の場面場面で楔のように強い印象を与えていく演技の力量には、ほとほと感心させられました。
好きな場面はありすぎて困るくらいですが、やはり絶望の淵で薄ら笑いを浮かべるケプラーの独白は原作を読み込んだ私にとっても思い描いたケプラーそのもので、あの一場面だけでも観に行った甲斐があると思いました。
他にも、序盤の「狂ってるかどうかなんて相対的なものだ!」と飄々と語る精神科医の陽平(つげ義春の漫画みたいで大好きな場面!)、「先生は今どこに!」→「タスマニアです。」の力の抜け具合(!)、ユースケにトキオを託し「修理したって直せない運命もある」といって去るミキオの小さな後ろ姿、「お前にとって血とは何なんだ!」とユースケに迫るピエロの言葉の迫力など、原作には無い細かなエピソードについてもしっかりとした厚みを持たせていて、流石の一言でした。
僕は千秋楽の日「客席で一番泣いた自身がある」とツイートしましたが、8割方は小日向さんの芝居で泣いていたように思います。舞台上を縦横無尽に緩急自在で観客を引き込んでいく小日向さん、本当に素晴らしい役者だと思います。次の舞台が楽しみでなりません。