愛した日々の棚卸し。---ドラマ「捨ててよ、安達さん。」レビュー ネタバレあり
あの、胸に「色仕掛」って書いてある部屋着。あんなの一体どこで調達してくるんだろう…。
「私をくいとめて」の公開が待ちきれないので、先週から個人的大九明子監督月間として同監督の作品をまとめて観ています。その中から、今回は足立祐実さん主演の「捨ててよ、安達さん。」の感想を書いてみます。
---
女優の安達さん。天才子役も今は2児の母。未だに子役の面影を残しながらも大人の女優として成功し、愛する夫と子供に恵まれた日々を過ごしています。そんな安達さんにある日、ライフスタイル雑誌の編集者から「毎週ひとつ私物を整理する」企画がもちこまれます。はてさて、「何か意識的に捨てる物を探す」という作業を始めた安達さんに不思議な出来事が起こり始めます。
女優で妻で母親として忙しい安達さん。今日も慌ただしい一日を終えて眠りにつくとそこは一見日常と変わらない安達さんの夢の中。しかしそこにはやけに大人びた口を利く謎の少女が一人。そしてその少女に招かれるようにして様々な「安達さんの持ち物」が安達さんのもとを訪れてきて、訴えます。
「捨ててよ、安達さん。」
これがこのドラマの基本フォーマットなのですが、回を追うごとに物語は意外な方向に進み、最後はあっと驚く結末が待っています。
---
さて、今「捨ててよ、安達さん。」を見終えて、思い浮かぶのは自分の結婚式です。一見このドラマとは何のつながりも無いように見えますが、私が自分の結婚式に感じたことをまざまざと思い出させてくれました。
結婚式、やる?やらない?やるとしたらどこで?いくらかけて?
誰を呼びますか?読んだら来てくれる人ですか?
そして、誰を呼ぶのをやめますか?
なぜ、その人を呼んで、その人は呼ばないのですか?
勿論、私はそんなことで悩んだという話ではなくて、実は「この人は呼ぶ、この人は呼ばない」なんて判断をサクサクできる自分に逆に驚くくらいだったのですが、色々準備を勧めていくうちになんというか自分の身の回りの人や物を仕分けしているような気分になってきたんです。
いや、はっきりと仕分けを意識していたわけではなかったのですが、当日、披露宴の入口の扉がひらいて、会場の中を見たときにものすごく納得できたんです。「ああ、これが現時点の自分の姿なんだ」と。式場、料理、ケーキ、拍手、音楽、そして呼んだ人、呼ばなかった人、来てくれた人、来てくれなかった人、全て含めて現時点の自分の姿がそこにありました。
結婚式に来てくれる人って、どうして来てくれるんでしょう。お金はかかるし、それなりの物を着ないといけないし、時間はかかるし、そもそも他人の幸せです。損得だけで考えればは彼らはこう言ってるんです。「捨ててよ」と。
それでも皆さんそれを乗り越えて来てくれた。なぜか。それは彼らは私が選んだ「私が甘えていい人」だからなんだと思います。披露宴に来てください、ご祝儀くださいって、これすごく甘えてますよね。それを許してくれる人たちが今の自分にはこれだけいるってことがわかって、それがすごく嬉しかったんです。
それは「多くの人に支えられて生きている」ってことなのかもしれませんが、私の感じ方はもっと自分本位な感じです。うまく伝わらないかもしれませんが「これまでがんばって生きてきて、自分が甘えられる人をこれだけ獲得した」というある意味所有感があったんです。例えば葬式が人生の決算発表みたいなものだとしたら、私は結婚式というイベントの中で人生の棚卸しをしたような感じ。ここまでのお前の成果はこれだぞと確認したような気分。
「捨ててよ、安達さん。」全12話で登場する「捨て候補」はとても多様で、自身の代表作を焼いたDVD、輪ゴムとレジ袋、古い携帯電話、貰い物の手作り時計、本、指輪、などなど具体的な物品が中心なのですが、それらはそれぞれに過去の自分だったり、様々なしがらみやら思い出やらに結びついていてるのですが、それぞれ忘れたり中途半端になっていた思いに「物を捨てる」という行為を通して一つ一つ決着をつけていきます。
これ、結婚式に誰を呼ぶかの話とすごく良く似てるんです。呼ぶのは簡単。でも呼ばないと決めるのは都合のいい悪いは抜きにしてやっぱりどこか自分の中の気持ちを整理する必要がある。あの人はもういいよね、って感じで。やっぱりそれはほろ苦い味がする行いです。
でもその過程を通って残るものってやっぱり愛おしいです。
ネタバレになりますが、安達さんも12話で提示されるアイテムすべてを捨ててしまうわけではなくて、捨てないという選択もするわけですが、私は安達さんが残した物っていうのは、安達さんが全力で甘えられる物なんじゃないのかなと、ドラマを見ていて思いました。物に甘えるって変ですかね。でも物を眺めながら思い出に浸るっていうのは、物に甘えてるってことなんじゃないでしょうか。そして、そんな甘えられる物があるってことは、生きていく上でとても大切なことなんじゃないかと私は思うのです。
登場人物で印象に残っているのはなんといっても、全話通じて夢の中の案内人を演じた子役の川上凛子さん。特に12話の芝居は圧巻でした。ですがそれよりもなによりも、安達さんがやはり同じ子役出身だからでしょうか、この小さな女優さんに対して全く対等なスタンスで芝居しているのがとても見ていて心地よいです。
安達祐実さんはもう魅力大爆発で私は一気に大ファンになりました。この物語は本人役という特殊な役で、見ている側は安達さん本人の人生をわかって見ています。と書きたいところですが、おそらくそれは誤りで、安達さんは私たち「見る側がイメージする安達祐実像」を完璧に演じきっています。もちろん彼女はこのドラマにあるような葛藤を経験していると思いますが、それをとうに乗り越えているからこそのこの演技だと思います。ただ、心の引き出しは出し惜しみなく開けているのだろうと、そこは間違いないと思います。
あとテーマソングがいいです。オープニング、エンディングともに。どちらもことさら詞が良くて、私の駄文よりこちらの数十行の歌詞のほうがよっぽどこの番組の内容をあらわしてるのがちょっと悔しいくらいです。
脚本は下田悠子さんと大九明子のお二人。いったいどうやったらこんなシナリオ思いつくんだろう。テレ東の深夜はたまにこういうの出してくるからまったく侮れない。Paraviの配信で全部見ると4000円くらいかかってしまうけれど、それだけの価値は十分にある大傑作!私をくいとめての公開を待つ間に見るにもちょうどいいサイズ感です。
ほんといいから見て!
---
オープニングテーマ
"Bye by me" Vaundy
エンディングテーマ
"明日も明後日も" SpecialThanks
めっちゃいい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?