舞台「私の恋人」-- 3.渡辺えりさんについて
私の恋人
オフィス3〇〇公演
2019年9月8日
下北沢 本多劇場
最後に、#渡辺えり さんについて。
まず第一印象。彼女はのんさん以上に「苛烈過ぎる女」ですわ。失礼ながらあのお歳であの情熱とあの強引さ、貪欲さはすごいを通り越して呆れるほどです。3○○の舞台には多少のことではびくともしないえりさんの世界観が存在していて、今回の舞台も上田岳弘さんの原作がものの見事に飲み込まれた感があります。その世界観の強さ故に、ご本人も認めている通り、3○○の舞台は好き嫌いがはっきり別れるんだろうなと私も思います。私にはどちらかといえば苦手な作風かもしれません。
女優渡辺えりの舞台上の存在感は抜群、歌唱力も流石の一言。でも彼女が演じる舞台オリジナルの登場人物の「トキオ」には最後まで乗れませんでした。トキオはユースケの双子の弟で、優等生的なユースケとは正反対の存在として登場します。パンフレットの言葉を借りれば弱者の代表ということで、当然彼には「私の恋人」などいません。ユースケが日々恋人と出逢うことを夢見ている一方で、トキオの夢は「夢を持つこと」なんだとか…。
スタイリッシュな上田岳弘の作品世界に垢抜けない人物がいきなり土足で上がり込んでくるような違和感。そこが脚本家の狙いなのかもしれませんが、そんなトキオの登場を境に、物語は3○○独特の世界に突入していきます。そして残念なことに、そこからクロマニョン人、ハインリヒ・ケプラー、キャロライン・ホプキンス、そして行き止まりの人類の旅、といった原作の重要な因子が物語の本筋からどんどん引き離されていきます。
それなのにユースケ、トキオ、陽平のエピソードの間に、わざわざそのかけ離れてしまった原作の本文が独白の形で挟み込まれるのですが、乖離した二つの物語が同時に進む感じが私にはどうにもちぐはぐで、あまりうまくいっているようには見えませんでした。演じる側にとっても役作りが相当難しかったのではないかと想像します。
もっとも脚本に多少の問題があったとしても演技や音楽や装置や衣装や照明といった様々な要素で作り上げられていくのが舞台の面白いところ。結局さんざん楽しませてもらいながら渡辺えり的世界にまんまと押し切られ、やっぱり最後の青空のシーンではわけもわからず感動して泣いてしまうわけですから、渡辺えりさんと3○○のエネルギーには完敗です。多くの人の感想が「話はよくわからなかったけど面白かった。」というところに落ち着いてましたが、2回観てこうしてぐだぐだ感想を書いている私でも出てくる感想は同じです。
そもそも小日向文世さんとのんさんを同じ舞台に上げたというだけで、既に渡辺えりさんには1億点くらいの点数は付いてます。連日の盛況ぶり、ネットでの反響も良好。まずは大成功の舞台だったといっていいでしょう。
今はとにかくご苦労様でしたと申し上げたい。次回はもう少し落ち着いた作品を期待しますが、無理でしょうねえ。なんせ彼女こそ一番の「苛烈過ぎる女」ですから…。