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今もそこに・・・

我が家で唯一
見えて聞こえる兄の話

系譜によると遠い昔
父方の先祖に異形のお坊様がいたそうです

自身の力を抑えるために
呪物が宿る面を被り
修行しておりましたが
時の帝より「祓い」の
命が下ると
面を外し、解き放つ鬼神の力で滅する

と、同時に

髪は腰まで伸び
金に輝く瞳と
鋭く曲がり伸びた爪が
竜神の痕跡を垣間見せたそうです

力の解放後は
山にこもり人外の姿が
戻るまで半年以上、山での
おこもり修行を余儀なくされたとも
伝わっています

それでも長い年月が
話の真意や
血脈を薄め
いつしか伝説とすら
継がれなくなった現代で
ごくわずかに
力の滴りを兄に落としたのかもしれません

私と兄は3つ違いの兄弟ですが
私の下にはひと誕生を迎えられず
早世した妹がおりました

兄の能力は幼い妹の没後から
少しずつ始まっていったと
後に聞きました

ある年、小学生になった兄は
夏の日に楽しく遊びすぎて
日が暮れかけた家路を
大急ぎで走っていました

「かぁちゃんに怒られる」

その恐れから、うっかり
飛び出してしまった交差点で危うく車にひかれそうになりました

すんでのところで難を逃れた兄は
道路際の塀にもたれ
冷や汗とも脂汗ともつかぬものを
左右の半そでで拭うと
ふと
横に立っている電柱の足元に
一人の老婆が座り込んでいるのに気づきました

兄「ばーちゃん、どーしたの」

老婆「・・・・・」

兄「もぅ暗くなるよ」

老婆「・・・・・」

兄「帰らないといけない時間だよ」

老婆「・・・・・」

いくら話しかけても
背中を丸めて姉さん座りのまま
顔も挙げません

ハッと我に返った兄は
「ぼく、帰んなきゃ」
と、つぶやくと
老婆をそのままに
家に帰ってきたのだそうです

母からさんざ叱られていた兄は
私が風呂から上がったタイミングで

「由紀が上がったから入ってくる」

と私を押し出すように
脱衣所に駆け込んできました

そのうち、父が帰宅し
二人楽しそうに
背中を流しあっているようです

その日の夕食時に
母が兄のことを父に報告しました
自分の代わりにしっかりお灸をすえて
もらおうと考えていたようです
しかし
老婆の話を聞いて
両親の顔色が変わりました

その交差点では
数日前に老婆がひき逃げにあい
亡くなっていたのです

これは
私が覚えている最初の
兄が「見えた」話でした

両親に諭されたからでしょうか

私のいるところで
このようなことを
話すことはなくなりました

それから何十年もの時が立ち
結婚や就職、進学などで
一度は離れた実家に
兄も私もそれぞれの事情で
帰ってきました

数年は何事もなく
親子4人の懐かしい生活です

病気がちな母に代わり
父が食事など家事一切を
取り仕切ってくれるので
私と兄は働きに出て
家族の生活を支えていました

寝たり起きたりの生活でも
母は、父の手料理を喜び
仲よく暮らしていました

ところが、何の前触れもなく
ある日突然
母の足が動かなくなり
全く歩けなくなりました

病院に行っても原因がわからず
皆が頭を抱えているとき

兄が、ぽそり・・とつぶやきました

「水が欲しいんだって・・さ」


次の日
長く訪ってなかった
遠方の墓に行ってみると
草山となった納骨堂は
苔むし、荒れ果てていました

私と兄は数時間かけて
掃除をすると
なみなみと水を注ぎ
お供物を供え
線香をあげました

ご先祖様の眠るお墓が
キレイになると
自分も大きく息が
吸えるようで
気持ちのよいものです

これで安心ね。と
帰りかけた時
兄がくるりと振り返り
手を合わせました

私が「どうしたの?」と聞くと
「ありがとう」と声が聞こえたんだと答えました


私が知らなかっただけで
兄は「見えて聞こえる」ことを
言葉少なに話してくれました

家に帰りつくと
嘘のようなホントの話で
母がよろよろと歩いていました
急に足に力が入るようになったのだそうです

兄は「よかったな」と
一言声をかけただけで
お墓でのことは何も言いませんでした

あまり話したくないと
言っていた兄の気持ちを尊重して
私も両親には何も言いませんでした

それから
穏やかな日々が
ゆるゆると過ぎていましたが
ある日突然
母が亡くなったことで
様変わりしました

母の長々続く小言と
「おいしい」といって
食べてくれる笑顔を失った父は
ふさぎこみがちになり
家事もほとんどしなくなりました

リビングでは
生前、母がソファーに座り
足もとに父がごろ寝をして
仲よくテレビを見ていたのですが

母が居なくなった今でも
父はソファーに座らず
足元の定位置に
ゴロゴロしています

テレビを見るわけでもなく
ただ、そこに
無言で寝そべっています

母を懐かしんでいるのだと
何を言わずに来ましたが
そろそろ一年
少し元気を出してもらいたいものだと
兄に話したところ
無言で父のいる
枕元に胡坐をかきました

兄「なぁ、母ちゃんがこう言ってるぜ」

(父ちゃん、しっかりせんね!)
そう怒鳴りながら
ソファーに座って
父ちゃんの足を蹴っ飛ばしてる

と・・・・

それから
生前の母の定位置には
誰も座らなくなり
寂しさから飼い始めた猫も
不思議とそこは空けるのです

今年も
お盆が近づいてきたある夜

夜中に風呂場でガタンと
音がしたらしく
兄が行ってみると
脱衣所の棚(二段)の一段目に猫がいました

風呂場と脱衣所は窓が開いているので
夜風が涼しいと
ここに来たのかもしれない

一段目に置いていた脱衣籠は
猫が棚に上がるときに
蹴とばしたのかもしれないと
元に戻し
踵を返しかけた、その時

風呂場に白くほのめくものが見え
夏なのに冷たい夜気を感じ
目を凝らすと

浴槽のふちに左腕をのせ
ゆったりと湯につかっているような
母の姿がそこにありました

透明のようで白い煙のように
ゆらゆらと漂う不安定な母の姿

ハッキリしないのですが
幸せそうに入浴しているのが
わかるらしいのです

揺蕩うような姿の母

よくよく見ると
右手に何かを大事そうに抱え
時々、それに話しかけるように
頭を・・首を動かす

何なのか、その時は
わからなかった


そう
私に話しながら
思いついたように
兄が言う

あれは、きっと
一番下の妹を抱いていたんだ




数か月ぶりに
書きました
少し脚色しましたが
これは友人宅の実話です

思うようにうかがえず
お返事もままなりませんが
元気に頑張っています

noteは私の気持を吐露する場所であり
SNS内の故郷

勝手ではありますが
時々、こうして
出没するわがままを
お許しください

今は事業を軌道に乗せるべく
ひとり、奮闘する日々を
送っています


皆様のお幸せを
いつも願っております
ありがとうございました


sennninnkame




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sennninnkame亀井速水
毎日の重ねから私なりの 「思い」を綴っております 少しでも「あなたの」琴線に 触れるものがあれば幸いです 読んで下さり、ありがとうございます