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怪#7-1(死の自覚)

この話は#3で
お迎えが来た
兄やんの妹
藤枝さんの最後を
綴っております

藤枝さんは
早逝した前夫との間に
女の子が一人

再婚相手との間に
男の子が一人と

子を設けておりました

子供同士の
年の差が13歳開いていたので
下の子が就学前に長女は
家を出て独立していました

多感な年ごろでもあり
後父との関係も
はかばかしく無かった

もともと無口なうえに
実父と非常に性格も似ていて
仲が良かったのが障壁となり
新しい環境に
どうしても馴染めず
後父を「父」と呼ぶことさえ
できなかったのです

誰のせいでもありませんよ

ね…

長女が独立してからは
家庭内が
円満になったように
見えましたが

生活の安定のため
日用雑貨品の商いをしており

おりしも高度成長期
顧客も増えて、幼い長男すら
あまり構うことができない
忙しさでした

その甲斐あってか
ひと財産築くに至ったのです

他人は信じられないと
従業員を雇うことなく
夫婦での切り盛りは
確かだったかもしれません

しかし、そのせいで
常に一人だった長男は
大人しい性格が災いして
ほとんど顧みられず
高校生となっていました

幼い時から整った顔立ち
成長するにつれ
高身長で
言葉少なく優しい
何より端正な顔立ちは
女生徒の憧れではあったが
男子生徒の反感と
嫉妬の的となり

数多くの手紙や
贈り物(手作り)
と、同時に
始終、因縁をつけられ
常習的に殴られる
事態に発展していました

殴られて顔に痣ができ
口の端が切れる

それがまた
母性本能をくすぐるから
女の子が騒ぐ

そうすると
嫉妬したヤローどもが
また因縁をつける

高校時代はこれの
繰り返しでしたが
藤枝夫婦は商売に忙しく
息子の辛い心情など
気づきもしません

結果、長男も卒業と同時に
他県に就職して
独立してしまいました

それからは夫婦で
安定した商売の傍ら
好きな旅行に出かけ
近隣ではありましたが
観光や散策など
人生を楽しんでいたようです

子供との関係は希薄でしたが
「お金」に関しては
愛情の代わりとばかりに
言われるがまま
送金していました

二人の口癖は
一億なんて簡単に貯まるよ
出来ないのは
その人が贅沢してるからだ
毎日、一万円ずつ貯金すれば
すぐに貯まるんだから

こう言われるたびに
ムカムカしていました

そりゃぁね
商売していれば日銭が入る

辛抱して暮らしながらの
貯金は可能かもしれないが

月給いくらの勤め人に
そんなこと出来ないよ

生活に必要なお金のほかに
毎月30~31万円貯金
するなんて
不可能でしょ

嫌味だなぁと、いつも
不快な気持ちに
なっていました

そんな藤枝さんも
いよいよ60歳。
年金をもらえる年に
なりました

嫌ながらも
アタシも暇人

藤枝さんの店先で
高慢な話に相槌を打ちながら
お茶を頂いていると

ふと、気付きました

腕や足の見えるところ
あちこちに紫色の痣が
あります

打ち身にしては小さいが
数が多い・・・?

まさか
あの優しい「旦那」が
暴力?なのかと
疑いたくなる数でした

私の目線で気付いたようで
「この痣、やでしょー」
「病院で見て貰ったら
  血管が脆いんだって」

そう話し出した

ほんの少し
触れただけでも
パチンと切れるぐらい
脆いから気を付けるように
言われたのよ

ぶつけて痛かったら
痣になるのも
覚えてるでしょうけど

痛くないのに出来てるから
何時ぶつけたのかすら
わからないの

そう言いながら
「仕方ないわ、フフフ」
と笑っていた

見るも痛々しげなのだが
まったく痛くない・・らしい

紫色の内出血の色が
毒々しい花のよう

不吉な
(地獄花)のようだと
フッと過ぎったが

「ねーそんなことは
  いいからさ」

「次の休みは北海道の
  ラベンダー祭りに
     行かない?」


藤枝さんが旅行を
提案したので
うやむやになり、そのまま
忘れてしまいました

その日の20時が回ったころ
藤枝さんのご主人から
電話が来ました

藤枝さんが突然倒れて
近くの外科に運ばれたが
手に負えず
1時間ほどかかる大学病院に
これから向かうと

一切の予定のキャンセルなど
頼まれて
また連絡すると言うと
切れてしまいました


そういえば
私の自己紹介
してなかったわね

私は#4に出てきた
母の芳江です

藤枝さんは私の姉なの

色々、繋がっていること
わかるかしら?



話しを戻して


大学病院とは
ただ事ではない

娘にいつでも連絡が
取れるように言いつけて
私も慌てて、後を追った

やっと到着すると
ご主人が一人待合室で
うなだれていた

自販機で砂糖と
クリームたっぷりの
コーヒーを二つ買って
無言で差し出し

そのまま、黙々と
飲み干したら
やっとご主人の吉さんが
口を開いた

吉之助だから「吉さん」と
呼んでいたんだよ

夕食の片付けも終わり
食後の散歩がてら
夜道の散策に出かけたら
丁度、最初に運ばれた
外科医院の前で
藤枝さんが
「ぐぅっ」とうめいて
倒れたらしい

幸いにもかかりつけの
病院なので、そのまま
運び込んで

さぁ、処置を・・・と
思いきや

藤枝さんの血管のもろさを
承知している先生は
自分では出来ないことを
わかっていました

すぐに大学病院に連絡して
搬送手続きをしてくれた

でも、何も、知らされて
いなかった吉さんは
何でなのか
わからず
泣いて頼んだ

手遅れになるといけないから
ここで、どうか

早く何かしてくれと・・。


先生はね
諭すように話した

こうならないように
奥さんには早く
大学病院に行くよう
紹介状も書いて
渡しておいたんだよ

大病の予見はなかったが
状態を把握しているのと
いないのとでは
いざというときに
違いが出るからね

そう言って
吉さんの肩を
ポンポンと優しく
触ると


小声で
「願おう」

医者にあるまじき
祈りを口にした


毎日の重ねから私なりの 「思い」を綴っております 少しでも「あなたの」琴線に 触れるものがあれば幸いです 読んで下さり、ありがとうございます