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岩井俊二監督の夏至物語

危なかった。もう少し若かったらこんな映像を撮りたいと思って全てを投げ出してしまいたいと平凡な私が勘違いしてしまうほど、良い映像だった。

1992年の短編映像のセルフリメイク版が2024年の夏に配信された。40分程度の映像で出演者は少なく殆ど主演のアイナ・ジ・エンドさんの演技。ベタつくように生ぬるい夏のある一室で愛する人を待つ若い女性の1日を描いていた。

人との対話はほとんどなくて、主人公の心の声(独り言)でなんとなく彼女の輪郭が見えてくるけど、それも支離滅裂な部分があって何が事実なのか分からない。もしかして全部夢なのかな?と思ってしまう程不安定。

この独り言の淡々とした感じが狂気めいていて若い女性特有の恋愛に対しての依存性のようなものが伝わってきた。

その夢から覚めるように主人公の妹が部屋にやってくる。正反対の性格の妹はとても明るく近所の人にも愛想が良い。主人公は心の声で、「みんなに愛されるアイ、だけど誰も愛せないアイ」と言っていた。家族背景の複雑性と主人公の愛に対する関心が描かれているような気がした。

物語が進むにつれて主人公の歪んだ愛も垣間見れる、水槽で買っている小さなウツボ。大切に育てている事が分かる。一方で飼っている鳥が亡くなっていた事は気づかない。食べなくなったきゅうりはゴミではなく土に還してあげる。普通の感覚からすると違和感を感じる。

そしてその違和感の全てが最後のシーンで腑に落ちる。

セリフが少ない分、目線や表情、仕草などが主人公の心境を表現していてぐっと世界観に引き込まれる作品だった。狂気じみていて理解しがたいこともあるけど主人公から目が離せない。儚くてすぐ崩れてしまいそうな主人公の繊細な気持ちを表現した作品だった。

主人公が独特な語り口で心の声(独り言)を言う時、なんだかAマッソのコント「紙媒体」でもこの違和感や恐怖感を感じたなと思った。

どちらも自分の世界について話すけれど、どうもその感覚が世間からズレている。それにも関わらず本人は自分の世界を語り続ける。その信念に恐怖を感じてしまう。

私は紙媒体のコントが好きで、文字起こしをして読んだ事がある。文学的でとても美しいと思った。少し私の愛がズレたところに向いてきたのでこの辺で終わりにする。

「夏至物語」ずっと心に残る作品だと思ったし、毎年うだるような暑さの時期に見たくなるんだろうなと思った。

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