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もっとくらべる図鑑

昔この図鑑を手に取ったとき、この図鑑は今よりもずっと大きかった。
10数年前、世の中がまだ平成と呼ばれていた時代に僕はこの図鑑と出会ったわけだ。小学一年生という小さい僕が、誕生日に買ってもらった大きな本。
この世の中での動物、もの、宇宙などを比べる図鑑。
もしかすると、無意識のうちに僕のはこの本を世界の教科書にしていたのかもしれない。

正直な話、この図鑑に大それた思い出はない。ただただ、食い入って見ていたというだけです。






ワニとカバ、または19歳


最近、実家と祖母の家を往復する生活から、実家で父との二人暮らしの方にシフトした。家族関係が何もかも解決した訳ではないけれども、なんとか着実に解決へは向かっているのかもしれない。
実家に帰ると、やはり様々なものを整理する必要があった。
昔遊んでいたゲーム、短編小説、初めて買ったCD。
まるで僕の部屋は「僕の歴史観」であった。


そんな中で僕の心を特に動かしやがったのがこいつ、

小学館より出版  もっとくらべる図鑑


どうなんでしょう、みなさんはこの本持っていましたか?
それなりに有名な本ではあったと思うけど。
僕は確か誕生日プレゼントで親に買ってもらいました。

先ほども述べたようにこの本は、この世界にあるもの、動物、宇宙などのあらゆる事象の大きさや長さなどを比べた著書である。

当時この図鑑を手に取った僕は、まるで世界の教科書を手に入れたかのような気持ちだった。
勉強は嫌いだったが、知的好奇心はなかなかに強い子供だったのだと思う。
自分が好きな分野はいくらでも学ぶことができていたけれど、興味を持てない分野であると、本当に集中力がなく何事も着手できなかった。
それは成人した今でも何も変わっていない。


図鑑、図鑑には、僕の知的好奇心を埋める全てがあった。

植物、動物、海の生き物。または星、宇宙、時間。

今でもわくわくする言葉がたくさん並んでいた。
僕はもうとてつもなくワクワクして、寝る前も必ずこの図鑑をのぞいた。


地球と月はどれくらい離れているのだろう?

カバとワニはどちらの方が噛む力が強いのだろう?

潜水艦はいったいどれくらい深く潜れるの?

日本の広さは?猫は?紫陽花は?


さて、現代は令和、私は19歳。

反吐が出る世の中で、ちまちまとギターを鳴らし、仕方なくレジを打っている。もう今は、カバとワニ、どっちの方が噛む力が強くても正直どっちでもいい。
はっきり言って毎日忙しい。特段何をしている訳でもないんだけど。
健康的な忙しさもあれば、心がズタズタになっていく忙しさだってある。
時にはカウンセラーにお世話になることだってある。

男と女についても悩むし、家族についても悩む。
図鑑をテーブルいっぱいに広げていたあの頃よりも、悩みは当然増えている。毎日希望や幸福よりも、絶望と孤独が顔を出してくる。
それはもう、惨めなほどに。

はっきり言って俺は、社会も将来も競争も、心底嫌いなんだ。
大学もバイトも音楽も恋愛も家族も、全て逃げ出してやりたい。
今現在19歳で見る世界は、あの時図鑑で知った世界よりもあまりに気持ち悪すぎる。

あの時の知的好奇心よ、いつまでもそのままで。いつまでも死なないで。

自分が好きな自分でいるためには、僕はもう少し子供でいる必要がある。
ただその子供を、社会は当然弾く。当たり前です、「普通」ができない人間に、誰も給料は払っちゃくれない。

美しいものだけを見ていたい。

その考えはいささか子供すぎるし、叶わないことなのだと思う。
たとえば、雨が降った朝に水たまりで遊ぶ子供のように、全てを受け入れることができたら。僕は子供のまま大人になれるのかな?

19歳にしては稚拙な考えと文章で、同期の友達はもう二十歳だ。
もう世界が怖いだなんて言ってられない。


なんとか気持ち悪い世界の中で、美しいものを探して生きていきたいと思う。そんな決心を、19歳になった僕にこの図鑑は届けてくれた。
つくづく、本は偉大だと感じる。





あ、ちなみにカバとワニだと、ワニの方が噛む力強いらしいです。



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