誰かの物語を追うSF -Outer Wilds- Ver.Twitter
みなさんは、物語開始時点で既に死んでいるキャラは好きだろうか?
私は好きだ。
もう既に終わりが分かってしまっている状態で、キラキラと生きている時代の故人キャラを見るのがとても好きだ。結果だけがその辺に転がっているのもとても興奮する。
映画タイタニックとかもとてもいい。
煌びやかだったはずの船内が朽ち果てて、事故の「結果」がそこかしこに横たわり、残った物がさまざまなストーリーを呼び起こさせる。
ユニバのイマーシブルアトラクション、ホテルアルバートは実に良かった。
屋敷で起こった惨劇の跡を知っていながら、その晩に一体何が起こったのかを追体験していくホラーアトラクション。しかしながら一人が得られる情報は断片的なので、みんなで情報を持ち寄って考え込むなど、とても興奮した。
それで、この冬一番興奮したゲームをみんなにも知って欲しくてこれを書いている。
とりあえずこれを見てほしい。
これを見て刺さった人は、この場で記事を閉じてほしい。私からのお願いです。
動画を見ない人のために簡単にあらすじを書いていく。
「あなた」はかつてこの太陽系に存在したとされる「ノマイ族」の足跡を調査するために、宇宙船に乗って宇宙へ旅立つ新米飛行士だ。太陽を中心にぐるぐると回るいくつかの惑星に到達して「ノマイ族」の遺跡を調査するために、人生初の宇宙飛行に挑む。しかし、あなたが宇宙へ旅立った日、その22分後、突如として太陽が爆発して宇宙は終わりを迎える。
しかし、どういうわけか、あなたが再び目を覚ますと時間が22分前に戻っている。
永遠に繰り返される22分を積み重ねながら、あなたはこの星系に散りばめられた「謎」を一歩ずつ解き明かしていく。どうしてノマイ族は滅んだのか?どうしてタイムループしているのか?そして、太陽の爆発を止める方法は?
ここまでで刺さった人も記事を閉じて、プレイする気持ちを整える方向へと切り替えてほしい。本当に、それをおすすめする。このゲームは何よりも「知らない」ということが一番楽しいゲームであるので、知らなければ知らないほどいいのだ。
いいのだ!
で、こんな程度で「よっしゃやったろ!」と思ってくれる人も少ないと思うので、もう少しだけ紹介していきたい。もちろん、ネタバレは最小限に止めるつもりではあるが、もしかしたらちょっと触ってしまうかもしれないので、その辺はご了承いただきたい。
たぶん、このゲームで一番興味を惹かれるのは「繰り返される22分」なのではないかと思う。私もそこで引っかかったクチで、色々な人の紹介文を読んでみても、必ずと言っていいほどこの「タイムループ」に言及している。
なので、私は少し違うところを紹介してみようと思う。
それが上記の「みなさん、死んだ人好きですか?」という問いだ。
このゲームでは、プレイヤーは「ハーシアン族」(と読むはず)で、現在唯一この星系に生きる知的生命体である。そして、かつてはこの星系に「ノマイ族」と呼ばれる古代種族がいたことが分かっている。
彼らは超科学力を持っていて、たとえば宇宙で重力を発生させる変な石を活用していたり、小型射出型偵察機を簡単に回収できるワープ機能を開発したりしていて、その恩恵にハーシアンも預かっている。
けれど、どういうわけかノマイ族は滅亡してしまった。
そんな彼らの足跡を辿っていくのが、プレイヤーである「あなた」の仕事であり、このOuter Wildsというゲームの根幹である。
このゲームの実にいいところは、ノマイの遺跡が朽ち果ててその辺に転がっているというところである。
何のために作られたのかわからない外壁を眺めながら、朽ちた建物の中に入っていくと、目の前に突如として「生活していたっぽい」スペースと物が現れて、ぽつんと白骨化した遺体が倒れている。
そして壁には彼らが残した会話が生き生きと綴られている。
ノマイ族の一人一人には名前があって、性格があって、人間関係がある。彼らが生前にキラキラと活気に溢れながら交わした言葉を、私は一人瓦礫に埋もれながら傍の白骨遺体と読み進めていく。
そして改めてあたりを見渡すと、そこが一体何なのかだんだんと分かり始める。
そして、それを各惑星で手あたり次第に繰り返していって、情報を積み重ねていくと、突如として今ここに転がっている遺体が「誰なのか」を理解する。そして彼らに何があったのかを理解し始めた時、まるでただの遺跡であったはずの場所が活気に溢れて、まるで人の声が聞こえてくるかのような錯覚に囚われる。
これが本作のこの上ない魅力だと私は思う。
既に出会うことのできない誰かと語り、彼らの思いを追体験していく。それはこの上なく寂しくて、同時に彼らの希望を知ることだ。
Outer Wildsはそれを積み重ねて、積み重ねた末に彼らの物語の先を見にいくゲームである。宇宙の滅亡も、22分のタイムループも、彼らの物語を追いかけることに比べれば些細なことに過ぎない。
さて、これで違うところに刺さってくれた人はいるだろうか?
分からないので、もう一つ紹介したい。「宇宙から音楽が聞こえてくる」という特徴である。
実は宇宙には、私よりも先に宇宙へと冒険に出かけた先輩宇宙飛行士たちがいる。彼は一人一つシグナルの代わりに楽器を持っていて、各々のキャンプ地で手慰みに音楽を奏でている。
それが宇宙に耳を傾けると聞こえてくるのだ。
誰もいない惑星で、どうしていいか分からなくなった時に、手に持っているシグナルスコープを掲げると、どんなに遠くにいても誰かの楽器の音を拾う。真っ暗な宇宙で星の瞬きを眺めながら、彼らの音色を追いかける。そして、目的地に辿り着けなくて途方に暮れて迷子になっている最中に、突然楽器の生音が聞こえてきたりする。
彼らは常に、音色を頼りに無事を確かめ合う。
大きく育った木の側の暖かな焚き火の前で、彼らは一人穏やかに楽器を奏でている。
そんな先輩宇宙飛行士に見守られながら、遺跡を渡り歩いて、かつて生きた「誰か」の記憶を辿っていくゲーム。それがOuter Wildsというゲームの別側面であり、やっぱりOuter Wildsそのものである。
さて、Outer Wildsのもう一つの側面であり、これもやっぱりOuter Wildsそのものであるとは思うけれど、それはもちろん主題であるOuter Wilds、つまり「未知の世界への冒険」であると思っている。
これは語るのも野暮というもので、是非プレイして体感してほしい。
Outer Wildsを検索すると、やれ操作性がクソだの、酔っ払いのふらふら歩きだの、慣性許さんだのと散々な評価が出てくるけれど、できればこれらの評価に怯えずにプレイしてほしいと考えている。
このゲームの素晴らしさは「こんな散々な評価でコントローラーを投げまくったのに、それでも誰かに紹介することをやめられない」という、この事実以上でも以下でもない。
すごいゲームである。すごいゲームであるのは間違いないから、みんなにプレイしてほしいのに、苦労した点がどんどんフラッシュバックしてきて「……万人にはおすすめできないな。」になってしまうのだ。自分の好きな物語を追体験してもらうのに、無用の苦労を他人に背負わせるのはやはり気が引ける。それはそう。めっちゃわかる。
紹介する時には、どうしても難ばかりが思い浮かぶ。このゲームに限らず、漫画だって映画だって、小説だってそうだ。
「前半1時間はあんまり面白くないんやけど…。」とか「絵がな…下手で読みにくくて…。」とか、誰かに進める時にはそんなのばかりが先に出る。でも一番伝えたいのは、それを超えるだけの「何か」が作品にはあるということだ。そのあらゆる難を押しのけてもあなたに体験してもらいたい。そう思う。
まあ、全然ダメなアレやったら誰にも言わずに終わるので、つまり「操作が難しいので万人に勧めにくく」とか書いてるということは、そういうことなのだと私は理解している。万人に勧めたい。全人類にプレイしてほしい。
参考までに、このゲームは酔いがひどい。3D酔いをしたことがない私も、当初はプレイ時間が1時間を超えると酔った。なので、ゲームは1日1時間以内と決めてプレイし始めると、大体3日目くらいからは操作に慣れ始めてスムーズに移動できるようになり、5日を超えた頃からは酔わなくなった。
ちなみに、シャドウオブモルドールを6年かけてクリアしたくらいには普段ゲームをしない。基本ソシャゲばっかりやってる。でもクリアできたので、きっとみんな大丈夫。
話は長くなったけれど、もし今まで全くOuter Wildsというゲームの情報に触れたことがなかった人が、名前だけでも知ってくれたなら、この記事を書いた意味もある。
ところで、これはTwitter用に記事を書いたので、実はFB用に書いたものもある。そこでは少しネタバレを含んでいるので、プレイする予定ができた人は読まずに無視して頂きたい。
何も知らない。これがこのゲームの一番面白いところである。