船体に刻まれた惨劇を追え—Return of the Obra Dinn—

終わってしまった惨劇を追うのが好きだ。

ミステリーを主人公達と共に追う登場人物よりも、例えばクローズドサークルと化した洋館で一夜の惨劇が全て終わってしまった後、朝になって一番初めに洋館の扉を開ける警察官なり管理人なりになりたい。

朝日を背に真っ暗な洋館を覗き込んで、逆光で「なんだこれは……」って言いたい。

どうしてこんなところで!?こんな死に方を!?みたいな。

普通はこれがここにあるはずないのに何故……?みたいな。

「結果」だけを頼りに、あの日何があったのかを紐解いていく。あの日、この場所で生きていた人々の物語と、その人達に何が起こっていたのかを解明するけれど、でもそれは結局「終わってしまった」惨劇なので結果は何も変わらない。そういう微かな虚しさを伴った「終わってしまった惨劇」を追うのが好きだ。

そういうわけで、そんな私の歪んだ性癖にジャストヒットしたゲームを紹介したい。Outer Winldsを紹介していた人が紹介していたから、絶対外れないだろうと思って軽率にストーリーも読まずに買ったゲーム"Return of the Obra Dinn"—オブラディン号の帰還—

私はPS4でプレイしたけど、ここではニンダイの紹介貼っておきます。

【動画見るより読んだ方が早い勢のために以下ストーリー説明】

四年前、航海中に突如として消息を絶った交易船オブラディン号が帰還した。船体は酷く損傷し、60人いたはずの船員と乗客は誰一人として見当たらない。

保険調査員として船に乗り込んだあなたは、船体に取り残された数体の遺体から死の記憶を読み取り、あの日彼らに起こった出来事を追体験していくことになる。

一体何が起こったのか、60人はどこへ消えたのか、そして目の前に横たわる「彼ら」は誰なのか……。

【ゲームのルール説明】

とある人物から預けられた不思議な懐中時計「メメント・モーテム」を使って、船内に散らばる遺体から「死に際の記憶」を読み取って、乗員乗客60人全員の身元と安否を確認するのが目的のゲームです。

乗員名簿と画家のスケッチ、そして死の記憶をつなぎ合わせながら、顔しか分からない「この人」が誰で、どうなったのかを推理していく、いわばパズルゲーム。

戦ったり逃げ回ったりなどのアクション性はなく、むしろひたすら手元のメモに情報を書き込んで、何度も現場に足を運んでは確認し直すタイプのゲームです。


ゲーム的にこれが刺さるタイプのオタクを推察するならば、多分ホテルアルバート勢と謎解きクラスタじゃないかと思う。たぶん。

でももっと他に刺したい層がいるので、今回は完全にプレイ後感想に終始しようと思っています。何故なら、性癖に刺すには性癖で殴りかからないと特攻が乗らないから。

おそらく、一般的な紹介記事を読むと「推理ゲーム」としての側面が強く書かれてるのでは、という印象。もちろん、クリア後に読めるタイプの記事だとキャラクターに迫った話も出てくるけれども、ネタバレになってしまうので致し方なしとおもいつつ、それでも私は「推理ゲーム」ではなく「情緒混乱ゲーム」として紹介したい。


すっごい虚しい。

めちゃめちゃ悲しい。

とてつもない寂しさを抱えながらオブラディン号を下船したけど、心がまだあの日のオブラディン号の上にいる。あかん、日常生活手につかへん。

今日から私は、日常の隙間でふと宇宙を見上げては耳を澄ませ、そして雨音を聞けば北大西洋の海風を感じるヤバい奴になってしまう……。



オブラディン号の帰還、何が一番素晴らしいって登場人物のほとんどが現在時点で「死んでる」こと。

死んでるどころか遺体も見つからない。

絶対にあの時ここで生きていたはずなのに、生きていて、そして死んでいった後に何も残っていない。ただ「彼」と共にいた誰かの「死」によってのみ、彼がそうやって生きていたことに触れることができる。

何回も何回もそれを繰り返して、そして「彼」の名前が分かって、どうやって死んでいったのかを知った時には、私は「彼」の友人関係や私生活や、どこで寝起きをしていてどんな生活をしていたかまで知ってしまっている。

そして、全てが判明したとしても、私には彼の道行と結果を変えることはできない。

ゲームを進めて全容解明へ近づく度に、この苦境と惨劇に直面してしまったオブラディン号の乗組員達への愛情と理解が深まってしまうし、それが深まれば深まるほど解明した時の虚しさが大きくなっていく。

私たちが触れられるのは「死に際の記憶」なので、もちろん惨劇が起こってからの辛い記憶の方が目立つのだけれど、「それ」が起こる前の何気ない日常風景だったり、日用品の並び方や宴会のスケッチ、それに仕事風景などの隙間から「彼ら」のいつも通りの平和な毎日があったことを知ってしまうし、そんな平穏な航海を繰り返して善良に生きてきた彼らの幸福な人生が間違いなくそこにあって、それを愛してしまえばしまうほど、「ああ、失われてしまったんだな」という虚無感が押し寄せる。

終わってしまった「彼ら」の人生を、終わった後に愛してしまった私は、一体この先どうやって生きていけばいいのだろうか。

何も得るものはなく、死を看取って弔うこともなく、ただ終わってしまった物語を見尽くした私には何も残らない。初めから終わっていた物語なのだから、この虚しさを解消する方法はなく、ただ心をオブラディン号に置き忘れたままで日常生活に戻るのだ。

そういう虚しさが、このゲームの一番の魅力なのではないかと私は思う。

実は、ゲームをクリアした後でもまだまだ考察の余地がある謎がいっぱい残っている。

死の間際しか写さない「メメント・モーテム」は、その惨事によって連続した「死」の隙間に起こったことは教えてくれない。だから、観測外で起こった事柄は観測内の違和感や矛盾と照らし合わせて考察するしかない。

そうやって隙間をつなぎ合わせた時に初めて、私たちはあの日オブラディン号の上で生きた彼らの生き様を知ることができるし、そしてやっぱりあの日のオブラディン号と今は断絶していて、求めれば求めるほどに拒まれる。

そういえば、ゲームをクリアしてすぐにサントラを買った。

パブアレンジのメインテーマで枯れるほど泣いた。

Outer WildsのCampfire Songでも思ったんやけど、なんでこんなに明るくて辛くて悲しいことするかな!?

失くしてしまったあの日の平穏と幸せで殴ってくるんじゃない!!


そういうギャップで風邪が引きたい人におすすめのゲームって言えば、確かにそうかもと思わなくはない。そのギャップ自体は自分で探して繋ぎ合わさないと見つけられないので、人によっては上質な推理ゲームになるし、私がやると情緒混乱ゲームでした。

惨劇の裏側に幸せな平穏をチラチラと見てしまうタイプのオタクに是非プレイしてほしい。本当に。お願い。

ところで、私の推しは一等航海士のウィリアム・ホスカットなのですが、彼がどのような運命を辿るのかは、是非プレイして体感してほしいと思います。

そして私の好きキャラタイプを知っている人は驚かれることと思います。私の好きなキャラクターは「理想主義で愛情深いくせに、悲しいほど理知的で現実主義者」つまり衛宮切嗣とかその辺。

ウィリアム・ホスカットのどこがジャストヒットしてしまったのか、果たして彼は本当にそんな男なのか、なら何故彼はあんなところであんな死に方をしたのか。

乞うご期待です。

ところでところで、オブラディン号が目指していたアフリカの喜望峰ですが、たぶん私の間違いでなければコーヒーの有名な産地。

アフリカ、タンザニアのキリマンジャロで産地がキボーといえば有名で品質も良く、柔らかくて甘みのある酸味が美味しいコーヒーです。東インド会社とかってゲームの中にも出てきてたから、たぶんコーヒーこれ無関係じゃないなって思いながらプレイしてました。交易船やしね。

ゆかりのある物を身の回りに置きたくなるオタクなので、飲んで泣きながらサントラ聞くわ。

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