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わたしとN氏のバトル〜ケツを割る〜

20230330

木曜日



 朝の打合せ後、みんながはけてから声をかけられた。

N「いっつープレスの方、お昼後からお願いします」

わたし(いつしか)「はい」

N「それと残業のことなんだけど、もうごっちゃになってるから、もういっつーの方から来てもらって」

わたし「わたしからお伺い立てた方がいいんですよね?」

N「うん?毎日の事だからぁ。いっつー歯医者行ってるんでしょ?」

わたし「? 行ってないですよ」

たまにある用事の為に、わたしの方から毎日残業のお伺いを立てなきゃいけないのも変な話だと思う。わたしは隣の部署の残業には用はない。

わたし「それは加工(部門)の総意ということですよね?」

N「え?」

わたし「皆で決めてそうなったんですよね?」

N「そう」

わたし「分かりました」


わたし「(残業あるよの一言も言えねえんだな)はぁ……」

N「(面倒臭えな)……はあっ」

もちろんNの括弧内の感想はアテレコ。


 Nは加工のみんなに相談していないはずだ。
ボスが入ってたらもっとマシな話を作ってくれるだろうから。

 実はわたしはわざとNが嘘をつきやすい質問の仕方をした。ちょっとした信用をなくさせるために。
ちょっと損ねたくらいで何も変わりゃあせんよ、今さら。




そもそもNは話を分かっていない。
残業をして欲しい方が要請するのかどうか、ではなく、わたしが使っている交通機関の関係で、定時前に残業するのかどうかを決めろと要求しているのだ。

 現状のNは、わたしが帰るよと声をかけると、他のチームを率いているOに残業することないかと聞き、
Oは「Nのチームが残業して欲しいんでしょ?こっちは知らないよ」と返し、Nは考えることを放棄。
わたしに待てをしたまま全く別の話題でOとお喋りを始め、Oが残業について何か言ってくれるのを待ちながら話を長引かせる。
見かねてOが「いつしかさん待ってるよ」と促すと、Nは再びOに「何かある?」と尋ねる。
毎日これ。残業して欲しいのか帰っていいのかさっさと答えられたらこんな要求はしていない。

なので話はまだ終わっていないのだよN。



 Nが何も決められない人なのは知っている。
弊社は何時まで残業するか表記しないといけないのだが、Nはそれも誰かに決めてもらうまで粘ろうとする。
ボスも毎日聞かれてうんざりし、「Nさんが決めなよ」と突き放している。
それでも毎日ボス(とかO)に決めてもらいたがる。
Nが残業のメインなのでNが決めるしかないのに。

それでいてやりたくないことは絶対にやらないという頑固さもある。

『協力はして欲しいけど、自分から要請はしたくない』

Nがこう言い出したら「ケツが3つに割れるよ」と言われても必ず自分の意思を貫き通す。
わたしはケツは2つまでにしたいのでNが相手だとわたしが折れるほう。

わたしが大人という意味ではなく、大抵の人はケツを守る。
ケツを守らない奴は、守りたいものが人とは一味違う。






昼前

 隣の加工室からボスの声が聞こえた。

「いっつーに頼んで出して貰って」

それが2、3回聞こえた。多分誰かが嫌がっている。

わたしが仕事している業務室に現れたのはヤレバ・デキルジャンと、ヤレバを連れたボスだった。
結局1人で来れなかったらしい。

「これとこれとこれでしょ?」と、ヤレバに聞きながらボスがわたしに頼むものを書いている。

ボスが作って欲しいものをわたしに説明している途中から、ヤレバ・デキルジャンの姿はなかった。
結局丸投げされたな、ボス。



 少しして、再びボスが来た。後ろにヤレバ・デキルジャン。
別件だ。

ボス「これ、IllustratorのをExcelに直せる?」

わたし「(必要としてる人が)直せばいいんじゃないですか?」

ボス「IllustratorのデータをExcelに持って来れない?」

わたし「互換性がないです」

なので、わたししか作れないってことはない。
Excelは全く知らないので、むしろわたしは作れない。ボスやヤレバが作った方が絶対に早い。



 事務所に行くと、ボスがExcelで作ろうとしていた。
最初に頼んでたやつも、わたしが作るとIllustratorになってしまうけど、ボスがExcelで作れば出力するのにいちいちわたしに頼まなくて済んで(ヤレバも)気が楽じゃない?と聞くと、

ボス「あ、今回のはやって欲しい。こっちはゆっくり時間がある時にやるから。
いっつーにお願いしなくてもいいようになるからさ」

おそらく昨日までのボスなら、わたしが自分で作れと言っても絶対に作らなかった。

Nとのことでわたしが面倒臭いことを言い出したから、これ以上刺激しないように動いている気がしなくもない。
狙ってはいないが良い影響だ。







昼後

 天気娘のところで作業をしていると、ボスが現れた。

ボス「なんて言って来た?」

わたし「わたしの方からお伺い立てて欲しい。加工全員の総意だって言ってました」

ボスは苦い顔をする。

ボス「あたし、昨日いっつーに何も言わないでって言われてたから言わないでいたら、ね?案の定声かけなかったんだって?あたし言ったのに!『Nさんから声かけてね!』って。

そしたら作業してるヤレバちゃんとかベッキーさんとかが頷いてて、『あの流れで声かけてないの?』って。ポニちゃんも頷いてて。

Nさんが『ボスさんが今朝言ったから』って言うから、いやあたしは『Nさんから声かけてね!』って言ったじゃんって言ったらヤレバちゃん達も頷いてて」

わたし「帰る時に『え?あたし(が声かけるの)?』ってコントは聞こえました」

天気娘「ラスボスがやってくれると思ってるからだよ」

ボス「Nさんから!って言ったらNさんが『なんであたし?』って言うから、『いっつー会議で3回も言ってるって言ってたよ』って。『いつ!?』って」

いつか知りたいなら直接聞いてくれていいのに。
そうじゃなくて『いつ!?』で時間稼ぎするつもりなら泣いたほうが早い。
流石に母親くらいの歳の人に泣かれたらわたしも引くよ。みんな引いてくれる。


ボス「Nさんキレちゃって『じゃあOヤンが手伝って欲しい時もボスさんが手伝って欲しい時もあたしから言うの!?』」

わたし「極端に走りましたね」

ボス「だから『あたしもOヤンもまずないでしょ!基本的にNさんの手伝いでいっつーは残ってるでしょ!?』って。
ベッキーさんも、いつしかさんは加工の状況が分からないですよって。Nさん不機嫌だとこっちに当たるから嫌なんですけどって言ってた」


 今は大分丸くなったけど、ベッキーが入社した頃までのNは本当に性格が終わっていた。
自分の都合に合わないことをパートがするだけでわざとデカいため息を聞かせるような、不機嫌が仕事してるような人だった。キレ散らかすし。
自信の無さを態度で隠している場合があるというが、まさにそれだろう。


ボス「あたしも管理職降ろしてくれって殿(社長)に言ってるのよ。
Nさんにいつまでもあたしがいると思われると困るって。『Nさんは器じゃないんだよなー』って。器じゃなくてもやらせてみてよって!」

確かに、ボスと同じく管理職である醤油おじさんは器ですらなく網目の荒いザル。
権利だけ主張して義務を果たさないような人間だが、そういうのが管理職でいられるならNでもなれるはずなのだ。

わたし「殿はボスさんを手放すの嫌なんじゃないですか」

ボス「えー?困るよー」

わたし「まぁ、Nさんは何考えてるのか分からないってのが問題かなって。
残業の時なんでなのか聞いてみようかと思います」

Nを暴くと何が出るのか興味が湧いてしまった。







残業

 ベッキー達の前だとあれかな、と思って彼女達が帰ってからインタビューを始めた。


わたし「おさらいして良いですか?昨日わたしは『長考してる間にバスの時間に間に合わなくなるから、それなら事前に残業あるなら言ってってなって、
今朝Nさんから加工の”総意”でわたしがお伺い立てるって話でまとまったって言ってたじゃないですか。
それは良いんですけど(良いとは思ってない)、結局今まで通りじゃないですか。

 つまりお伺いを立てた時にまた長考したり『Oヤン何かあるー?』とか、考えるの放棄して別の話始めたり」

N「それはない。そういうつもりはない」

食い込み気味に反論したN。

わたし「そうなんですか?わたしには誰かに決断してもらおうっていうので時間取られてるように感じるんですけど」

N「それはない」

じゃあどういうつもりでわたしの残業をOに選択させようとして粘ってるんだろう。
直感だけど、わたしの言っていることは当たっていると思う。
それはないと断言してくるので和解には程遠い。


 そうしたら1つ目の嘘を暴いてみるか。


わたし「加工のみんなでまとめた話聞かせてもらって良いですか?ザックリで良いんで。
なんか自分達の都合しか考えてないなと思ったんで、そんなことないっていうの知りたいです」

N「A社の印刷が上がって来たり、B社の印刷が上がって来たり、ラミネートがあったり、あれがあったりこれがあったり云々がかんぬんがあったりで、やっぱりいっつーに来て貰った方がいいねって」

わたし「それであっち(わたし)からお伺い立てて貰った方がいいねって話ですか?」

いつしかさんの手を借りた方がいいか、借りないでいけるか、という議論をした結果、借りた方がいいね、になったと言っているのか?

そんな議論をしてたなら頭が頭痛で痛いですよ。
そんな議論に他の参加者おらんでしょ。
真面目に答えてこれなのか、言いたくないことを誤魔化すためにこれなのか、どっちにしても話にならぬ。ダメだこりゃあ。



 2つ目の嘘と思われる「時間稼ぎ」→「それはない!」についても、どういうことなのか、質問を何度か繰り返した。
頭が頭痛で痛い返事が何度か続き、最終的には「あたしが……面倒臭いというか」という言質を収穫。
この言質、太陽に当たらなかったからかとても色が悪い。栄養不足だ。たまには日に当てたほうがいい。
他の言葉で誤魔化し始めると遺恨が残るだけだ。相手には結構バレてるんだから。




わたし「残業あるよって一言がなんで言えないんだろうなって思ってるんですよ」

N「いっつーの仕事の状況も分からないし、お願いするのは気が引けるなって」

わたし「ああー、気にしてくれるのは有難いんですけど、Nさん考え過ぎなんですよ。事実だけ伝えれば後は各自の判断で処理しますよ」

N「そうですかッ!はいわかりましたッ!」

わたし「怒らせちゃった」

終了終了!


 年下にアドバイスされたのが逆鱗に触れたかな?
Nは別にそれに悩んでるわけじゃないから余計なお世話ではあった。

余計なお世話をしたけど、今後はパパッと指示を出してもらいたいという意図だから、まぁいいわな。

また似たような件でしくじるようなら「言うの2回目なんですけど」って言えるし。
1度言ったのに忘れたんですか〜は、割と効く。話が通じる人なら。




 実際ね、Nが気が引けている間に何が起こっているかというと、

パート「Nさん、手空いたんですけど、快速急行社チーム(の手伝い)に入れます」

N「(でもこの人はお昼に帰るんだっけ?じゃあすぐ終わるような……)………………」

パート「…………」

沈黙。

返事はしろっちゅーの。
パートを不安にさせるほど無反応の時間がある。
気が引けてる間のNの体感は一瞬なのかな?

正直、Nも指示を仰がれて(考える負荷を与えられて)不機嫌なんだとは思う。
相手もそれを感じ取ってるから苦情が届いてるんだろう。

 わたしが訴えたこととパートが訴えたことはイコールの問題だ。
でも性格は変えられないから、結局はケツを3つに割る覚悟がなければNと同じ土俵には立てない。
そんな人はなかなかいない。



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