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気持ちじゃ変わらない

20230510

水曜日



9時半前

 慌てて来たため、弁当を冷蔵庫に入れるのを忘れていた。
冷蔵庫に移すため更衣室に戻ると、更衣室に灯りがついていた。
誰かの消し忘れか、それかあの方か……。
扉全開にしてある更衣室を外側から覗くと、あの方ことポニテがすでに小休憩に入っていた。
30分毎の小休憩は朝から始まってたんか。

昨日は祈りを捧げているだーなんだー書いたが、実際のところは眠気覚ましに来ているというのがオチだろうと思っていた。
しかしこうなるとやはりお祈り……?
朝から30分毎に休憩しなければいけないって厳し過ぎませんか?
適当なこと言うけど、寝てる間と食事の間は除外というルールはありそう。


 今回ポニテは背中を向けて部屋の中央に立っていた。
やはり片手を天に上げている。
もう片方の手で天の手をイジイジと触っている。
イジイジというか、クルクル?何かを指の腹で転がしているような仕草。包帯は巻いてなかったと思うしな。
なんだろうな、リンパ流してる?
いや、分からん。

わたしが来ましたよーという物音を立てると、ポニテはすぐに個人ロッカーの扉の影に埋まり、手元を隠した。
見られたくはない事を共用スペースでやられるのは気まずいんだって。

 ポニテはすぐさま更衣室から出て行き、廊下に設置されたアルコールで手を消毒し、加工室に戻って行った。

トイレや昼食休憩、部屋移動の際も必ずアルコールで消毒しているポニテ。導線にアルコールがなくてもわざわざアルコールの元へ行く。
アルコールは足で踏んで噴射されるタイプの物を設置しているので、踏んだ音がする方を見ると、8割がポニテだったりする。
30分毎にキィ、シャコっとペダルを踏んだ鉄の音が廊下に響き、ポニテの小休憩が情報として耳に入ってくる。

もちろんアルコールは会社がご自由にどうぞと提供しているので、好きなだけ使って良い。
ただ、つけ過ぎて手が荒れないのかと思うほど回数が多い。
もしかしたら手が荒れていて、それでリンパを流す?ような仕草をしていたり?

潔癖症という候補が出てきた。

・眠気覚まし
・ゲーム
・お祈り
・強迫性の潔癖症
・感染防止の何かの作業
・タバコ的な禁断症状

この6つが今のところの候補。

更衣室に行けない事情が発生すれば、前倒ししてでも小休憩を取っているほど、30分毎の休憩は絶対らしい。

 日頃仲良しのベッキーとヤレバ・デキルジャンと共に、周囲に対して「上司は完璧であるべき、パートさんには責任感を持たせるべき」などと訴えているが、これでもしタバコ休憩みたいな物だったとしたら、

ボス「仕事の幅を広げて欲しいの」
ポニテ達「周囲は完璧に職務を全うすべきだけど、私達は責任を負いたくありません」

といういつまでも平行線な謎のミーティングの時に、
「人に完璧を求める割にポニテさんは他の人より約3時間も多く休憩を取っていますよね?」って水をさすのに使えるな、と思っていた。

わたしは同じ問題が繰り返されていることに悶々とする血統の生まれ。
ミーティングの件はそろそろ歩み寄れやと思っている。
(上司のNに変わるよう訴えても無理なように、ポニテ達も無理なんだろうけど)

でもやっぱりポニテのは宗教上のルールで、30分に1度体毛を捧げなきゃいけないってんだったらスルーします。






昼前

 何か言いたげな取締が業務室に現れた。

取締「ここの椅子がそっちに行ってて、ここの椅子を事務所で借りてて、椅子が入るならここに欲しいよね?」

わたし「ですね!」

取締「だよね!」

取締は去って行った。

N「何が?」

わたし「知らない」

O「知らないんだ(笑)」

わたし「『はい』しか許されないから『ですね!』って」

N「世渡り上手(笑)」

O「違うよ、適当なんだよ」

それ。






午後

 プレスの天気娘の応援に行くと、シール部門のマー君が天気娘に愚痴りに来た。
もう名前を出さずとも分かる暗黙の了解のおじさんのことで。そう、醤油おじさんだ。

 醤油おじさんという人はとても難がある。
管理職に就いているのにも関わらず、部下に管理してもらい、部下が用意した仕事をただやる作業員で、何かと周囲のせいにして生きている面倒臭い人。

新人が来れば仕事そっちのけで武勇伝を語るのに忙しく、ミスをすれば逃げて同僚からの同情票の獲得に動き、普段は仕事中に寝るのに忙しい。
絶対に自分に非があることを認めず、ずっと人のせいにして来たからこれからもそうするつもりで、ともかく作業の確認をしない人。
醤油おじさんの印刷が全部擦れていてダメだったと指摘しても俺は偉いんだぞ、で跳ね除けられるという。
どうしようもねえ話しかない。


 同じ問題が繰り返されていることに悶々とする血統の人間なので、何が起こってるのか分からないけどわたしは口を挟んだ。

「もうペナルティでも作れば良いのに。何しても何も無いから焦りがないんですよ」

もう諦めている殿(社長)は無理だけど、まだ体力のある三代目が面談をやって、見込み無しなら給料減らすとか。

天気娘は品質に訴えれば良いじゃん、と提案した。
わたしは品質係だ。どうぞ訴えてくれや。

ただこういう事を言っても、結局誰も何も実行しようとはしない。
マー君は気持ちが軽くなればいいタイプの人だった。




 暫くすると、パネル部門の都合さんが作業入力をしに材料部屋に現れた。
わたしも材料部屋の機械で作業をしている。

そこに醤油おじさんが現れ、都合さんを部屋の奥に連れて行き、仕切りのカーテンを閉めた。

さっきマー君が愚痴りに来た内容で傷付いた醤油おじさんが「俺は悪くない」という啓蒙活動を始めているのだろう。もう何度も見てるこの光景。
そう、醤油おじさんは部署を飛び越えて色んな人に同情してもらいたがる。

わたしの元上司と醤油おじさんは思考がそっくりだからよく分かる。
(権力的に)強い味方を作って、その味方に盾になってもらう為に悲劇のヒロインになりきる。
負けそうになると、嘘でも最高権力者の名前を出して脅したりもする。
そういう戦いの下準備をしている最中。
戦いにならなかったとしても、周囲の自分への評価が下がることは避けたいので、絶対にこの啓蒙活動は必要なのだ。

活動中は仕事が止まってる?いやいや、そんなことより自分への評価と下準備のほうが重要。
ここが他の人と思考が大きく違うところ。






定時

 隣の更衣室から怒り爆発のような声が聞こえる。
ベッキー、ヤレバ・デキルジャン、ポニテの3人だ。

「言ったじゃん!」が何度も聞こえる。

ポニテ「わざわざふんわり言ったのに!」

今度は「言ったじゃんね!」が何度も聞こえる。

この遠慮がない言い方のトーンは上司のNのことだろう。

明日か、次回のミーティングになんか始まるんだろうな。
ベッキー達が入る前はほぼ時間通りに終わっていたミーティングだが、入って来てからはほぼ時間通りに終わることはない。
わたしはこの事前の怒り具合で延長時間を予想したりしている。



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