墓穴を掘る着眼点
20221221
水曜日
午前中。
軽く打合せをし、営業の蛇が部屋を出て行く時に、わたし専用の風よけのフィルムに腕だか肩だかが当たったよう。
フィルムをプリンターに貼り付けて、ドアの開閉の度に顔面に冷気が来ないように防いでいる。
フィルムなのでドアの風圧でゆらゆら動く。
あまり揺れないよう、補強をしたりして工夫はしている。
角も丸く切ったし、刺さるとかはないが、蛇はビビって目を丸くしてこちらを見る。
蛇「(フィルムがしなって)こっちに来たんだけど」
わたし「コンニチハーって言ってるんですよ。コンニチハー」
外す気がないのを確認すると、蛇は去る。
営業のペロリが「ちょっと面倒臭い新規」だと言って仕事を持ってきた。
既製品への印刷の新規で、斜面に印刷するものだから外形が描けないという。
じゃあ何を目印に印刷するのかというと、
ペロリ「中穴を見てやるって。分かんない事あったら言って」
と、去ろうとするからすぐに引き留めた。
わたし「穴の位置とかサイズは?」
ペロリ「……書いてない?」
わたし「書いてない」
ペロリ「…………こっちはここ。見にくいけど」
中穴ではない話を始めた。
自分が分かっていないことを悟られたくなくて墓穴を掘るような着眼点を発揮する男だ。
わたし「(不鮮明で)見えない。PDFとかあるんですよね?」
ペロリ「ある」
わたし「拡大して見ます。こっち(中穴)の寸法出てないけど」
話を戻した。
ペロリ「…………これじゃ出来ない?」
わたし「穴が無くて印刷出来るならいいけど」
ペロリ「うちで印刷するんじゃないんだ。向こうの人がやるから」
それは既製品はうちには届かないということで、定規で測れもしないということだが、
ペロリはわたしを落ち着かせるために「安心して」という意味合い。
考えることを放棄しているペロリに「集中して」と言いたいが、それは彼の生き方なので放っておく。
わたし「じゃあそっちに聞いてみてください、穴無くて文字位置正確に印刷出来ますか?って。
出来ないって言われますよ」
絵に描いたようにたじたじするペロリ。
この予備動作の次は面倒臭い奴に絡まれたー!という感じでそわそわと周囲へのアピールが始まる。
そんなに他人の目が気になるなら仕事した方が近道だぞ。どこ向かう気なのかは知らないけど。
夕方。
取締の話し声が廊下から暫く聞こえていた。
私服の女性を一人案内してるのが見えた。
新しい事務員さんかな?どういうこと?
後でボスに聞いてみたけど、ボスも何も知らないみたい。
またサプライズ新入りか?
17時過ぎ。
ボスの元にTナカが来て、うっすら聞こえたのは、「事務の新人さん辞めちゃうかも……」
そういえば、いつも17時にスパッと帰っていたのが、今日は10分くらい遅かった新人さん。
何か遭った模様。
取締が何か言い出したんだか非協力的だかで、
「また始まったよ、なんで学習しないのか」という表情をしていたボス。
ボス「これで何か遭ってもTナカさんは気にしないで良いから。あっちの問題だから」
取締に対して呆れていたのは確か。