チームイツキ
チームイツキ
多分読んでいてお分かりかと思うが、私は全くモテない人生を送ってきた。オタクだったので恋愛スキルはときめきメモリアル(恋愛シミュレーションゲーム)で鍛えた。会話は3択に答える形式でしか成立させられない。今でもイケてるメンズとの会話は非常に苦手である。友達によると高校時代までに健康的に好きな人とデートできなかった人間はずっと非モテメンタルのままであるらしい。私はときメモ内では色々な可愛い女の子とあちこちでデートしたが、現実では全くそんな記憶はない。そうなると私は一生非モテメンタルのままということになる。
「お前のことが好きだから俺と付き合えよ」
と既婚者に言われたのが、唯一強く記憶に残っている告白され経験である。でも多分これは告白にカウントしてはいけないので、そうなると人から告白された記憶はほぼゼロ、ということになる。
でも大人になると、告白されなくとも『なんとなくそうなる』ことがあり、気付けば『そう』なっていた、という事態が出てきた。ブスの自覚があり非モテを極めてきた者にとっては、『なんとなくそうなった』人に関係性を確かめるというのは恐怖だった。もし恐ろしい回答が返ってきたらもうどうしたらいいのかわからない。だったら関係性は曖昧にしておいた方が傷付かないで済む。きっと私は相当都合のいい女だったと思うが、非モテを極めし者には珍しいことではないのではないかと思っている。
断れない、ということを続けるうちに、『なんとなくそうなった人』が気付けば同時進行で複数人になっていた。誰とも付き合っているわけじゃないから問題ないと思っていたが、友達にはその男性達は『チームイツキ』と呼ばれていた。使い方としては、
「で、今チームイツキは何人編成なの?」
といった具合に使う。チームイツキは最大で三人で、入れ替わり制を導入していた。それ以上になりそうな時は、はっきり断らなくても、『そうなる』空気を何としてでも作らせなかった。私のキャパ的にチームイツキは三人が限界だった。
チーム制は、毎週誰かに会えて淋しくなくて、大家族で育った私にはちょうど良かった。幼少期から愛情に飢えていたのもあって、誰かに欲されるということ自体もとても嬉しかった。私は特に美人ではないが、『顔がエロい』と言われることは多々あって、巨乳だったのも手伝って多分需要はそれなりにあった。クリエティブな彼に、昔の会社の先輩、現役の会社の後輩、また別のクリエイティブな彼に、また別のクリエイティブな彼、そしてまた別のクリエティブな彼。どうやら私はクリエティブ男子に需要があった。そしてクリエイティブ男子はおしゃれだけど大概チャラくて、曖昧な関係にして来がちなので決してお勧めしない。
その中のクリエイティブ男子に一人だけ、
「果たしてこの関係は・・・?」
と訊いてみたことがあるのだが、その男子の回答は
「白か黒かだけが人と人との関係性じゃない。グラデーションがあってもいいと思う」
との回答だった。関係性を訊いているのにグラデーションを持ち出して来るあたり、『さすがクリエイティブ男子・・・』と思った。多分、私はいつもグレーな女だった。
ちなみにその男子は物凄くセックスが、なんというか、『え?今セックスしたっけ?』というくらいの薄味で、まるでそよ風に吹かれた後みたいだったので、友達には『そよ風』と呼ばれていた。クリエイティブ男子のくせにセックスは全然クリエイティブじゃなかった。
しかしチーム制を導入していると、チーム内でいつの間にかちゃんとした彼氏彼女になることもあった。なので私にも彼氏がいたこともある。私は彼氏が出来るとメンヘラゆえヘビー級の激重女になり、愛情をこれでもかと確認するので相当面倒臭かったと思うが、彼氏になった人のほとんどは受け止めてくれていた。育ちのせいで何かと不安定な私を支えてくれていたのは猫と彼氏達だった。受け止めてくれていた元彼達には、今思えば感謝しかない。いい加減大人になった私はとっくにチーム制度は廃止したので今はチームイツキは解散し人数はゼロ人だし、彼氏だけはギリギリ、いる。
そう、私にはギリッギリの彼氏がいるのである。