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婚活で話を一ミリも聞いてくれない男

※コロナ流行以前の話です

「医療系の営業職をしている」
という読書が趣味のメガネ男子と会った。

メッセージで話してる分には普通だし、
読書は私も好きだし、
ある程度会話が成立する人には会話が通じる人にはもう直接会う方が早いと思っているので、
「食事に行きませんか」
と言われて即OKした。

約束当日、彼から
「今日はここで働いているので19時にここに来て欲しい」
と或る総合病院を指定された。

待ち合わせ場所が・・・?
なぜに病院・・・?????

と思いながら私は「わかりました」と返事をし病院に向かった。
「つきました」
とエントランスで連絡すると、白衣を着た彼が颯爽と登場した。

ん・・・?
白衣・・・・・・?????

「少し不便な場所ですみませんね」
「いえ・・・・・・あの、もしかしてお医者さま・・・ですか?」
「あ、そうなんです、ここで医者やってるんですよ」
「はあ・・・」

彼は自分が医者であるということを印象付けるために、
白衣を着た姿を見せるためだけに、
待ち合わせ場所を病院にしたのだろう。

ダサっ・・・・・・・・・

そう思っていると裏口から出てすぐのところに巨大な外車が停めてあり(車に詳しくないので巨大で外車ということしかわかりません)、
「どうぞ」
と言われた。

きっと彼はこの素晴らしいであろう外車も自慢したかったのであろうが、
私は車は「可愛くて乗れればいい」、くらいの認識しか持っていないので、
何のときめきポイントにもならないどころか、
自慢したさが透けて見える時点でマイナス10000000000000点であった。

食事する店に移動している最中、
「どうしてお医者さんであることを隠してたんですか?」
と尋ねると、
「医者って書くと嘘つきとか結構悪口言われるんですよ〜」
と言っていた。
そんなことあるだろうかと思ったが返事はしなかった。

予定していた店につくと、
彼は私の好きなものや食べられないものは一切聞いてくれず、
「僕が最高のメニューを頼むんで任せてください」
と言って一方的にメニューを頼んでいた。
私には唯一飲み物を選ぶ選択肢のみが与えられた。
「梅酒のソーダ割りをください・・・」
とだけ言ってメニューが来るのを待った。

食事をしていても彼はいかに自分が頼んだ料理が素晴らしいかをひたすら語ったり、
なぜか私のカトラリーを使ったりして、
私が怪訝な顔をすると「あ、大丈夫ですよ!僕なんの病気も持ってないんで!!」と笑顔で言われた。

そういう問題ではない。
こいつは・・・・・・
やばいやつだ。

私は確信した。

なぜ婚活で会っているのに婚活っぽい話をしないのか。
「何科の先生なんですか?」
と私が聞くと、
「心臓です」
と返ってきた。

この人が心臓を診ているのか・・・
患者さんが心配になるな・・・と思っているうちに
食事を全て食べ終え、もう店を出ようかという雰囲気になりかけた。
私はその人が嫌すぎたのか、たった一杯でとんでもなく頭痛がしていたので即帰りたかったのだが、
「デザート食べましょう!!」
と言ってデザートを選び始めた。
「あ、私もうお腹いっぱいなので入らないです」
と伝えたが、
「デザートなんて一口食べて後は残せばいいんですよ」
と言われた。

はい、なしーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!

残す事前提でお店で食べ物を注文する人が私はとても苦手なので、この人はもうないな、と私の中で婚活スイッチが切れた。そこに残るのはただのいつきである。

でも目に前にいるのはこちらの話を聞く気のない医者である。
勝手にサクサクとデザートを選び運ばれてきた。
私は残したくないので全部食べたが彼は遊ぶようにして食べてほとんど残していた。

なしオブなし。
キングオブなし。

デザートを食べ終え「あの、私頭が痛いのでそろそろ・・・」
と言うと、
「小籠包食べにいきましょう!!」
とめちゃくちゃ元気に提案してくる彼。

今から小籠包??!?!
私がもう満腹だという話と頭痛の話は聞こえていなかったかな?!?!?!

「小籠包だったらね、ちょっとくらい食べれるでしょう!」
と言われ、半ば拉致の形で私はタクシーに乗せられて小籠包のお店に向かった。
タクシーの窓に写る自分の顔は笑えるほど死んでいた。
すると彼がいきなり、
「あ、運転手さん!今のお店めっちゃお洒落だったので停めてください!!!!!」
と言って乗ってすぐに降りることになった。
どうやら彼がめちゃくちゃいい感じのお店を発見したらしい。
歩いてみると、そこは一軒目に行ったお店と全く同じ種類の料理を提供するお店で彼はえらく落胆していた。
「あの、私頭が痛いのでここで・・・」
と私はもう一度伝えてみたが、
「せっかくなのでお散歩しましょう!!!!」
とすごいテンションで提案されて私の声はなかったものになった。
少し歩いていると鮮魚屋さんと居酒屋さんが同じ建物に並んで入っているところを発見し、
「ここは隣の鮮魚扱っててきっと美味しいですよ!ここにしましょう!!」
と言われて私はとにかく早く帰れればどこでもよかったのでそこに入ることにした。
店に入って一番、彼が「隣の鮮魚屋さんとは関係ありますか?」と店員さんに聞くと、
「ないです」
と温度のない口調で返されていた。

仕方ないので二人で入店し、
彼はビール、私は頭痛がひどいのでジンジャーエールを頼もうとしたのだが、
「もう飲めませんか?!?!」
と超びっくりされた。
私がこれまで何度も頭が痛いと言ってたこと本当に聞こえてなかったんだと思うと私も超びっくりした。
「一杯でだいぶ頭が痛くなってしまって・・・」
と言うと、
「僕ロキソニン持ってますよ!!!!!ロキソニン飲めば頭痛は一発ですからね!!!!!」
と言って彼は自分のバッグからロキソニンを探し始めた。

医者なのに薬を飲ませてまでアルコールを飲ませようとするなんて、ある・・・・・・???????
怖すぎる。
結局その日は持っておらず飲まずに済んだことに安堵した。

そこにお通しで、冷たい茶碗蒸しが出てきた。
お通しで出てくる茶碗蒸しがめちゃくちゃにおいしい、
などということはある程度ちゃんとしたお店に行かない限りないだろうと思うし、
普通の居酒屋さんの茶碗蒸しですね、と言った味の至って普通の茶碗蒸しだったのだが、彼は一口食べた瞬間
「マズっ!!!!!!!!!!残していいですよこんなの!」
と店員さんに聞こえる声量で言った。

私の「無理メーター」は最高を振り切り、
そこから多分私は完全に無表情だったと思う。

私は店員さんに失礼な態度をとる人間がめちゃくちゃ嫌いである。

なんだこいつは。
人間の心を所持していないのか。
こんなやつが医者をやっていていいのか。
患者さんの話はきちんと聴けてるのか。
自分の思い込んだ症状の治療だけしてるんじゃないか。
いろんなことが心配になった。

彼がなぜどうしてもわたしを二軒目に連れて行きたかったかというと、
「僕は医者である以外にも会社を経営していてその経営もうまくいっている」
という話がしたかったらしい。
しかし私的にはそんな話にもはや全く興味を示せる状態ではない。
「へえ、そうなんですね」
とだけ私は言い続けていた。

言いたいことを言い終えたようだったので、
せめて婚活っぽいことをマナーとして聞いておくか、
と思ったわたしは、
「どんな女性がタイプなんですか?」
と聞くと、
「フィーリングですフィーリング。それ以外ないでしょう」
と言われた。

フィーリング・・・・・・・・

二軒目に連れて来られた私は彼的にはグッドフィーリングということであったのだろう。
私はハイパーバッドフィーリングだったけど・・・・・・
と思った。

いい加減わたしの無表情を悟ったのか、
少しして帰る流れになった。

一応全て御馳走になったので、
「今日は本当にありがとうございました、ごちそうさまでした」
と言って別れた。

私はやっと彼から解放された喜びで満ち溢れていた。

独身のお医者さんはやばいって聞いてたけど!
本当にやばいんだな〜〜!!!!!
と私は謎にハイテンションで納得していた。

するとスマホが鳴った。嫌な予感がした。
彼からLINEで、

「 僕 は ま だ ま だ お し ゃ べ り で き ま す け ど ね 」
と入っていた。

え?!どうして解散する流れになったのか忘れちゃったの??!??!
私の頭痛と満腹はもう解散10秒で忘れちゃったの?!?!?

私は恐ろしすぎて、
「体調が悪いのでまた今度に・・・」
と返事をすると、
「了解😊」
という返事が返ってきた。了解、という返事すらもはや怖かった。

相変わらず私はすごい人ばかり引き当てるな・・・・・・
と思い、夜道を歩いた。
当然、彼とは二度と会うことはなかった。

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