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シロとクロの境界線

前回のつづき。

センシュー化学からルシアンへ移された資金はその後、実権を握る男性2人のプライベートカンパニーへと移されている。そしてセンシュー化学だけでなく、同様の買収事案が40社近くもあるらしいので、これはもう計画倒産としか思えない。
けれど、この件でルシアンの違法性を問うのは難しいんじゃないかな。買収した会社が100%子会社なら、資金をルシアンへ移してもおそらく問題にならない。

番組では、実権を握るひとりがノコノコと現れてインタビューに応えていたけれど、プライベートカンパニーへの送金については「ルシアンに貸していた金を返却してもらっただけ」(いわゆる事業主借だな、嘘だと思うけれど)と白々しく話していたし、倒産についても「本当に再建するつもりだった」とでも言えば、それ以上は問えない気がする。

狡猾だなぁとは思うけれど、巧妙なスキームというほどのものではないし、ルシアンに限らず昔からこういったことをやっていた会社はあったと思う。

今でもただ同然で売り出されている会社は結構あるし、中には売上が1億、2億あるのに1円で売りに出ている会社もあったりする。
こういったところは、売上が多く見えても業績不振で赤字続きや債務超過になっている会社がほとんどだろうし、ただ同然で手放そうとするのには、やはりそれなりの事情がある。
センシュー化学のようなケースもあれば、事業承継する相手がいないとか、従業員を抱えているので廃業するわけにはいかないとか、それでもこれ以上資金を入れることができないとか、廃業するにもお金がかかりすぎるとか。

赤字会社であっても経営の才覚ある人がただ同然で買収し、わずかな資金を入れるだけで黒字化できることもあるだろうし、そうして再生した会社を今度は高く売却することも考えられる。無論違法じゃないし、事業承継や雇用を守ったということを考えれば社会貢献ともいえる。だから決してM&Aが悪いものではない。

ただ、ルシアンのような会社がやっているのは、端から事業承継や企業再生、雇用を守る気などなく、彼らにとって重要なことは買収を狙う会社にどれだけの資産、というよりも流動性のある資金(預金や現金)があるか、ということだけだった。

仮に1千万円の現金(預金、運転資金など)を持っている会社が経営者の年齢的な問題や後継者がいないなどの理由により100万円で買収できたとすれば、理屈ではその時点で1千万円の入ったカバンを100万円で手に入れたのと同じことになる。
まぁ多くの会社は多少なりとも債務があるだろうからそんな単純な話ではないけれど、それでも売却したい会社というのは大抵の場合、早期売却希望なのでこういったことも十分あり得る。

その後、買収した会社を本当に再生して経営していくのかは買った側次第で、すぐにまた売却するなり畳んでしまえば、単純に儲けただけということになる。この場合、道義的な責任を問われることはあるだろうけれど、おそらく違法にはならない。

昔から企業買収をやたら繰り返している会社、特に何の脈略もないような畑違いの会社を次々と買収しているようなところは、すべてとは思わないけれどこういったことが目的だったんだろうなぁ、と思う。

それでも公には、もっともらしく「シナジーが」とか言うのだろうけれど。

つづく

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