取材のこと 2.
※ こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。
「商品のご提供を」「パンのご提供を」といった取材依頼もいかがなものかと思うけれど、中にはもっと唖然呆然としてしまうものもある。
以前、ある編集社から届いた取材依頼メールには何項目も質問が書いてあり、要するにそれに答えて返信を、というものだった。
店にも来ず、これは取材でなくただのアンケートでしょとしか思えないけれど、このメールには続きがあって、パンや店の内外装の写真までこちらで用意をするようにと書かれていた。それもご丁寧に具体的な画像サイズの指示までされているのだから開いた口がふさがらない。
確かに編集社側からすれば合理的な方法だろうけれど、これじゃあ「ぼくはあなたの部下でもなければ、下請けのライターでもないんですが」という気持ちにもなってくる。もちろんこの手の依頼に応える気なんて、あるはずもない。
「パンの名前の話」の中で「もうお客様が同業者でもない限り、説明をする際には厨房用語や専門用語といったものは、一切使わないくらいの気持ちでいた方がいいと思うな」と書いた。これは取材のときも同じだと思っていて、昔からぼくは心掛けていることがある。
取材といっても雑誌、書籍、ムック本、テレビ、新聞、ラジオ、今ならウェブサイトと様々で、それに雑誌と一括りにしてもその中には専門誌もあればファッション誌や情報誌もある。
これだけ多種多様になると取材をしてくださる側の質問も、素朴なものから専門的なものまで多岐に渡ることになる。けれど、どの媒体の方からも必ずというほど最初に訊かれる質問がある。
「おすすめは、何ですか?」
これは取材の方だけでなくお客様からもよく訊ねられるし、東西を問わずまたパン屋さん以外のお店でも頻繁に耳にする言葉なので、お店という場所においてこれほど汎用性の高い質問も他にないのだと思う。
で、この質問に対するぼくの答えはいつも決まっていて「特にありません」なんだけれど、こう答えると結構な確率で「じゃあ、全部おすすめなんですね」と言われる。
もちろんぼくは冗談で言っているわけでもなければ、ぶっきら棒に一言で終わるような会話をしているわけでもない。「特にありません」というのは、もう少しちゃんと述べれば、まずクロワッサンもバゲットも食パンにしても、それぞれの良さがあるので単純に比較はできないということがある。また、お客様の好みや取材される方の意図がわからないまま漠然と「おすすめは、何ですか?」と訊ねられると、「特にありません。だから本当に好きなものを選んでください」といった返答になる。
うちはもともとこういった感じなので、取材の撮影でも「ぜひ、これを撮ってください」といったこともまずなくて、「お好きなもの撮ってください」ということが多い。
今では取材もぼくである必要のないものはスタッフが受けてくれるので、そこでどういったやり取りがされているのか知らないけれど、ぼく自身がすべて応対していた頃は、こんな感じだった。
春と秋になると決まってパン特集を組まれる雑誌が多いけれど、特にそれが女性誌の場合には依頼があった時点で「デニッシュとか、できるだけ色のあったものの方がいいですか」とぼくの方から訊ねていた。
もちろん特集が明確な場合にはそんなことは言わないけれど、それが専門誌なのか、情報誌なのか、あるいはファッション誌なのか、また依頼される方がどういったものを撮影されたいと思われているのか、こういった ”何を求められているのか” といったことは、かなり意識していた。
つづく