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「登場人物 、 全員悪人」


前回のつづき。

ルシアンの何が一番の問題だったかといえば、債務保証の解除をしなかったことに尽きる。

会社経営をしていく上で借金(債務)があるのは普通のことで、それが前向きなものであれば特段の問題もない(ぼく自身は、無借金経営を目指したけれど)。
この、大半の会社にあるであろう債務残高は、通常は会社売却の際に買い手が引き継ぐことになる。特に中小零細企業だと代表個人が連帯保証に入っている場合が多いだろうから、これも譲渡契約で解除されることになる。

当然、センシュー化学の譲渡契約書の中にもその文言が入っていたにもかかわらず、ルシアンはそれを履行せずにトンズラをした。これだとセンシュー化学の元社長は、経営権もなければ会社も倒産しているのに3億円の債務は背負ったままということになる。これは有り体にいって詐欺だとしか思えない。
元社長は、泣きっ面に蜂どころか絶望に打ちひしがれたんじゃないかな。

M&A仲介会社であるペアキャピタルの社長も取材に応じ、神妙そうな顔をしながらこう話していた。

「残念ですね」

「このような会社を紹介したことに関しては、本当に残念なこと」

「我々も一緒に騙されてしまった」

「詐欺師と思われないようにするから詐欺師なんだ、と思いますね」

まるで他人事だな。

「このM&A業界全体が悪いものとされて、本当の意味で困っている会社さんにM&Aが届けられなくなってしまうようなことが非常に心苦しい」

はぁ?どの口が言っているのかな、と呆れる。
挙句には、ルシアンの実権を握る男性の写真を見ながら「憎たらしい顔をしていますね」なんて言っているんだから、これには視聴者が一斉に「お前が言うか」ってツッコミを入れたに違いない。
それにしてもよくもまぁ、こんな善人面してカメラの前に出てこれたものだなぁ。

100社近くもの買い手が同様の理由で買収を見送る中、なぜルシアンだけが手を挙げたのか。
この時点で仲介したペアキャピタルが確認、調べるべきだったと思うけれど、まぁそんなことまでするはずもない。
ルシアンの悪質さを見抜けなかったとしているけれど、見抜くも何も実際にはそういった懸念のある会社だと初めから知っていただろうし、少しでも早く高額な仲介手数料をペアキャピタルが得たいがためだけの故意犯だったとしか思えない。

そもそも論だけれど、会社売却なんて大ごとをたった2か月足らずで成立って、そんなトントン拍子に話が進むわけがない。これには違和感しか覚えないし、被害を受けたセンシュー化学の元社長も「誘導したのは仲介業者」「ルシアンよりペアキャピタルが憎い」とまで話されているのだから、元社長も後になって気づいたのだろう。

ペアキャピタルの社長はメガバンク出身で、2年弱という史上最速での東証上場だそうだけれど、だからこんな机上の数字しか追えない人になったんじゃないのかな。その結果が、拙速過ぎる譲渡成立至上主義になったのだろうし。
こんな人が「困っている事業承継のお手伝いを」なんて、本心から考えているとは到底思えない。

せっかく日本の株式市場のルールが改善され、海外投資家からも再評価され始めているのに、こんないい加減な会社を上場させるって東証さんもどうよ、と思っていたら、9月末でペアキャピタルは上場廃止になっていた。

逃げ足も早いんだな。

本当に困って事業売却を考えている人からすれば、こんな仲介会社は迷惑千万と言うほかないけれど、”上場企業だから” と信じた人たちも大勢いただろうし、これでは信用の失墜になりかねない。それに上場している会社の中には、まだ他にもこういったM&A仲介会社はあるんじゃないですか、東証さん。

番組でも取り上げていたけれど、M&A業界は現状、これほど巨大な規模になっているにもかかわらず法規制がない。だから法律や規制ができる前に稼げるだけ稼ごうとするこういった会社がたくさん出てくる。
しかし、これほどの規模になって未だにM&Aの仲介に資格が不要とか規制がないって、なんだか闇深い気もするなぁ。

今回のガイアの夜明けは、センシュー化学の元社長を除けば、まるで映画「アウトレイジ」のキャッチコピー、「登場人物、全員悪人」な感じだった。ぜひ、これを題材に「地面師たち」のチームで Netflixオリジナルドラマにしてほしいな。

そういえば以前、「レオパレス問題」「かぼちゃの馬車・スルガ銀行の不正融資事件」を暴いたのも「ガイアの夜明け」だった。
テレ東さんの取材力に感服するし、ジャーナリズムに対する矜持を感じずにはいられない。

素晴らしいな、テレ東さん。

つづく


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