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リッツ・カールトンで朝食を 4.

※ こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

席に着き、綺麗にセッティングされたテーブルを見てふと思った。
そういえば、ぼくには朝食を食べる習慣がない。

高校生か中学生の頃か、もう思い出せないほど昔から朝食を食べていない。
遠い昔に食べていた朝食の記憶といえば、インスタントコーヒーにどこか大手さんの食パンが我が家の定番だった。
なぜ、朝食が和食でなくパンだったのかはわからないし、気にしたこともなかった。家族が多かったため、おばあちゃんが手を抜いたとも考えられるけど、いま思うと彼女に下手に料理をされ、朝から得体の知れないものを食べさせられるよりは良かったのかもしれない。

そんなぼくの目前には、テレビか雑誌でしか見たことのないような朝食が並んでいた。
松宮さんが選んでくださったコンチネンタルブレックファーストには、冷たい飲み物の中から選んだオレンジジュース、温かい飲み物の中から選んだピエール・エルメのショコラショー、ヨーグルト、フルーツサラダ、2種類のコンフィチュール、それにピエール・エルメ セレクションよりということでピエール・エルメさんのパンを3種類選ぶことができる。

小さな瓶に入った紅白2層のヨーグルトがスペシャリテの組み合わせ ”イスパハン” であることは、ぼくにでもわかる。
ピエール・エルメ、ピエール・エルメって、どんだけピエール・エルメ推しやねん。と内心毒づきながらもピエール・エルメのショコラショーを選び、「お好きなパンを3つお選びください」と声をかけられた際には迷わず「クロワッサン・イスパハンを」と即答している自分が切ない。

フルーツサラダは、どのタイミングで食べるんだ?これはデザート的な位置づけでなく、その名の通りサラダなのか?と困惑するぼくの横では松宮さんは「なんでバターを切って置いておくかな。この表面が酸化しかけているバターは・・・イギリスの・・・では、切っておくにしてもちゃんと蓋のあるガラスケースで下には氷も入れてあって・・・」と高尚なダメ出しをされている。

 一番不思議だったのは、最初からお皿の両端にセットされているナイフ、フォーク、それに大きなスプーン。
ぼくらがこれから食べようとしているのはクロワッサンであってオムレツや目玉焼きではないし、小さなガラスの器に入ったフルーツサラダに使うカトラリーにしては大きすぎる気がする。
はて?どうしたものかと思案していたら、ザクッ!という音がしたので視線を向けると、松宮さんがナイフ、フォークを使ってクロワッサンを切られていた。

ちょっとした衝撃だった。

えっ・・・クロワッサンをナイフ、フォークで食べる人、初めて見ましたよ・・・

ぼくが「ラグジュアリー」と声に出そうとすると噛むのも納得ですよ・・・

しかしぼくにはあの大きなスプーンの使い途が最後までわからないままだった(松宮さんも使用されていなかったと思う)。
きっとラグジュアリーを噛まずに早口で3回言えるような、それが日常な人たちには、ぼくには知り得ない使い途があるに違いない。

つづく

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