新人スタッフとの雑談
※ こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。
先日、新卒で入ってきた専門学校卒のスタッフと雑談をしていたときのこと。
「学校の進路部みたいなとこに行くと、求人が貼ってあるでしょ?」
「はい」
「まず、その求人票のどこを見てる?」
「お給料を・・・」
「だよね。次に見るのは?」
「休みの日数」
「そりゃそうだ。他にも注意して見るところはある?」
「保険・・・」
「それは社会保険、厚生年金っていうことだよね。ちなみにそれは自分が気になったの?それともお父さん、お母さんから言われたの?」
「親から言われました」
「やっぱりそうだよね」
未成年で社会人1年目の認識がこういったものであることは、そうだよねと思ったけれど、彼女の親御さんはおそらくぼくらと同世代か、もしかしたらもっと若い世代の方だと想像すると、観念的にはわかるけれどその認識に軽く驚いた(もちろんうちにはちゃんと社保もあるし、手続きもしている)。
ここ数年、新卒に限らず求人へ応募があった際、電話口で何度も繰り返されてきた会話がある。
「社員には、なれますか?」
「試用期間があって、その後続けていけるようなら社員の手続きはします」
「それなら結構です」
あるいは、
「すぐに社員になれないなら結構です」
この会話は20歳前後の子たちというよりも意外と30歳前後、30代の人たちに多い。
飲食業や同業者の方の中には、同様の会話を何度も経験された方が多いのではないかと思う。余りにも繰り返される判で押したような会話に、ぼくは「そうか、彼らはパン職人や料理人になりたいのでなく ”社員になりたい人たち” なんだ」 というよくわからない結論に至った。
なぜ、そこまで職業選択の線引きが社員であるのか、ぼくには理解が及ばない。
いや、気持ちはわからなくもない。
おそらく彼らの考えには「社員 = 安定」といった思いがあると想像するけれど、残念ながら今の時代に安定なんてものはない。
ぼくらの親世代である団塊世代の人たちが年功序列や終身雇用を当然のように考え享受できたのは、右肩上がりの経済を前提とした仕組みが成立したからで、それがとっくに崩壊した現在の厳しい時代にそれをそのまま当てはめようとするには無理がある。
30年、35年ものローンなんて恐ろしい芸当ができたのも、やはり経済が右肩上がりを続けることを前提としているのだから、それが不能になったときには誰がどう責任を取るのだろうとさえ思う。
仮に30年先も自分が健康で仕事を続けることができたとしても、今や収入が上がるどころか現状を維持し続けることが可能なのかすら誰にもわからない。
それに本人がどれだけ努力をしても会社の舵を切る人が選択を誤れば、会社そのものだって簡単に消える。
安定、安心を求めるのは気持ち的にはわかるし自由だけれど、そもそも未来永劫盤石な会社なんておそらくない。それを求め、社員になることだけを目的にした人たちが数人でも会社にぶら下がり、貢献もせず権利ばかりを振りかざしでもしたらそれだけで零細企業なんて簡単に倒れるし、その時点で社員であることも安定、安心も消えてなくなる。
「どうしても」と頼まれ、先日お付き合いで受講させていただいたM&Aセミナーには、700人以上もの受講者が集まられていた。
参加者数に驚き、担当者に「こんなにも会社を売りたい人がいるんですね」と言うと、「いえ、半分は買いたいと思っている人たちなんですよ」とのこと。
このセミナーで登壇されていた方は、全国で年間3万件の会社が休廃業、1万件の会社が倒産しているというお話をされていた。
これだけでも社員になることが安定、安心とは、ぼくには思えないんだけれどな。
会社や社員というのは、決してみんなが思っているほど盤石なものじゃないよ。という話だけれど、年功序列はないなぁと思いながら、それでもぼくは終身雇用という時代錯誤な日本的システムを目指してはいる。