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取材のこと 1. 

※ こちらの内容は、ウェブサイト(現在は閉鎖)にて2016年~2019年に掲載したものを再投稿しています。内容等、現在とは異なる部分があります。ご了承ください。

うちの店は20年目で、今年の10月30日に20周年を迎える。
この間、とてもありがたいことに、ずっーと途切れることなく何かしらの取材をしていただき続けてきた。取材のない年は一度もなかったと思うし、取材のなかった月さえほとんどないと思うほど多くの取材をしていただいた。
今でも年間で受ける数だと、どれくらいあるのかもわからないほどになる。
その要因として、地理的優位性や店舗数が増えたということもあると思うけれど、もう20年にもなる最初の店でさえ未だに多くの取材依頼をいただく。

ちなみに、これまでぼくは取材費を支払って取材をしてもらったことが一度もない。また、数年に一度くらいは知り合ったライターさんと会食をする機会もあったりするけれど、お会計の際には100%割り勘でライターさんたちに接待をしたこともなければ、もちろん賄賂を渡したことだってない。
稀に依頼である ”商品でないもの(価格が付いていないもの)” を作った場合には、「価格がないので」とお代をいただかないこともあるけれど、その場合は大抵材料費を申し出られるし、基本的には商品であるパンや料理を無償で提供するといったこともない。

で、ここからはパン屋さんに限らずお店をされている方なら同様の取材依頼メールを受けたことのある方が結構おられるんじゃないかと思う話。

取材依頼の文面に「取材費等は、いただきません」という文言が書かれていることがある。依頼なのにわざわざ「取材費等は、いただきません」と断り書きを入れるのも妙な話だと思うけれど、ここまではよくあるパターン。
ところが読み進めていくと文章の後半に「商品のご提供を」「パンのご提供を」なんてものがあったりする。どう読んでも「タダで、ちょうだい」としか受け取れないけれど、率直に ”なぜ?” と思う。

そこで考えてみた。
まず、「宣伝をしてあげているのだから」といった、ぼくには時代錯誤としか思えない不遜な考えだった場合。
もしそうなら、それほど効果があるとは思えないし、そこまでして取材していただかなくて結構です、と思う。
次に「出版不況で予算がなく、経費をかけれないから」という場合。
もしそうなら、けれどその記事であなたたちは利益を得るんでしょ(あるいは、広告費を集める)。そもそもその程度の経費もないなら、そんな雑誌はつくらなきゃいいのに、と思う。

こういった依頼を平然と送ってくる人が続いたときに、思い出したことがある。
プロとして、生業としてデザインをされている方に「ちょっと描いてよ」「友達価格でやってよ」といった微妙な依頼をしてくる人に対し嫌悪するデザイナーさんがおられた。
プロとして当然の反応だとぼくは思ったし、「(パンを)タダで、ちょうだい」と言われているのと同じ気がした。
悪気はないだろうし、もしかしたらダメもとで言われているのかもしれないけれど(実際に「無償で提供するなら結構です」と伝えると「購入させていただきますので」に変わる人たちもいる)、つまりこういったことを平然と言ってくる人は、パンやデザインを軽視している人たちだと思うようになった。

デザインはともかくパンが軽視される原因があるとすれば、おそらくそれは単価の低さからくるのだと思う。取材だからといって、高級な料理屋さんにも「料理のご提供を」と依頼されているとはやはり想像しがたい。

5年前、レフェクトワールで大きなイベントを開催した際、ポスターを製作しようと思い、せっかくやるならデザインやイラストをプロの方にお願いしたいと考えた。
彼の描かれるイラストのファンだからという理由で、ぼくは Siphon Graphicaを主宰されている宮下ヨシヲさんに依頼することにした。
依頼をするにあたり、ぼくは最初にメールで「宮下さんには仕事として依頼しますので、ちゃんと請求してください。ぼくはイラストの相場がわからないので、いつも通りのデザイン料で結構です」といった内容のものをお送りしている。
また、このウェブサイトでコラムを連載していただいている外部の方々は、ぼくの友人、知人の方ばかりだけれど、仕事として依頼しているので原稿料をお支払いしている。

取材依頼のメールなどに「商品のご提供を」「パンのご提供を」と書くくらいなら、最初に「取材のお願い」や「取材依頼」でなく「商品提供のお願い」とでも書けばいいのに、と思う。

それなら、お断りするだけの話なんだけれど。

つづく


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