●恋1
これはZINE用に書いたものの最終的に掲載しなかった文章です。詳しくはこちらをご覧ください。
※このnoteの後半にラストレター/岩井俊二(映画、小説)のネタバレが若干あります
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あまり周りにわかってもらえないのが「好きだけど付き合いたくはない」という感情。
「え、好きなんでしょ?告白すればいいじゃない」
「告白するってことは『付き合ってください』って言うことでしょ?」
「そうだよ」
「でも、好きだけど付き合いたくはないんだよね」
「好きなのに付き合いたくないの?どうゆうこと?」
多分人並みに(人並みって何かわからないけれど)誰かを恋愛対象として好きになることはある。理由はちょっとかっこいいとか、趣味があうなとか、考え方が好き、話が面白いとか色々あった。逆に好きではないけど付き合いたいなと思うこともあった。付き合いたいというよりはこの人と付き合ったら幸せだろうなという話。わたしは少し年上の彼の見た目も時々なよなよするところも全然好きではないけど、デザインのことや好きだった女の子の話をしているときの表情を見ているとそう思えた。全然好きじゃないのに一緒に過ごしたいと思った。好き=付き合う の考え方の人にはわからないかもしれないけど。私と彼との関係性は「男女の友情が成立するか」という話ができないくらいの軽い間柄であって、ただ同じ団体に所属していてたまたま同じ大学で1年以上同じ作業をしてきただけだ。その団体の作業で一緒に出かけたり、飲んだり、ということはあっても、それを離れた場で一緒になることはない。もしもこの世界が政府によって決められた相手と結婚するシステムで、彼と一緒になる通知がきたならば、彼とキスもセックスもしたくはないけれど一緒に暮らすのは間違えなく幸せだと思うのだ。好きじゃないけれど。
初めて「好きだけど付き合いたくない」と思ったのは中学生の頃。同じクラスの男の子ゆう。ゆうが私のことを”かわいい”と言ってたと、彼と仲の良かった女の子がバラしたことで一気にクラスに広まって、気づけば”かわいい”が”好き”に変わって学年中に広まっていた。私は彼のことがもともと気になる存在ではあったけど、毎日のように好意を向けられると意識せざるを得ない。背が高くて、人が良くて、ムードメーカー的な存在で、勉強はできなくて、リーダータイプではないけれど人から愛されていたゆうは、私のことが好きだとバラされた後は実にまっすぐだった。係決めの時は「同じ係になろう?」と誘ってくるし2年の校外学習と3年の修学旅行は班が同じだった。席替えで私の後ろになった時は私の背中に投げキスをしてクラスが盛り上がっていて、それはちょっと(だいぶ?)嫌だったけれど……。私が吹奏楽部の朝練の後ケンカで大泣きして目を腫らしながら朝の会に遅れて行ったときは深く踏み込まずに心配してくれていたり、理科の実験説明でみんなが前に集まって私が見えなかった時は、さりげなく自分が見えない程で「もうちょっとこっちに寄ってくれる?」と前にいる子に言ってくれたりもした。彼が私を好きなことで場が盛り上がることもあったけど、私しか気づかないようなまっすぐに優しいところも好きだった。同じクラスで吹部の女の子が部活中にゆうのことを話題にするから後輩にも知られていたのは恥ずかしかったな…。頻繁に部活で話が上がるくらい彼は私に対して色々していた。
3年の夏休み終盤、運動会の準備のために学校で作業をしていた時の話題は恋話。隣のクラスの女子二人と私が集まって、私はほとんど聞く側の立場だったけど「きーちゃんゆうのことどうなの?」と話を振られて私は何て答えたんだっけな。仲が良かった子にさえ彼を好きだとは言ってなかった。ぼんやりと告白するなら今だよなと考える。私が彼に「好き」と伝えることはイコール「付き合ってください」ということ。中学3年生だ。でも進む高校も絶対違うし、彼の行きたい高校は就職率が高かったけど私は大学まで行くつもりだったし、この先一緒にいるのは考えられなかった。たまたま同じ中学で、たまたま同じクラスだっただけで、この学校という場所を離れたらゆうと一緒にいて楽しいとは正直思えなかった。彼氏彼女としてどこかに遊びに行ったりもしたかったけど。他の子たちがしてるみたいに”付き合う”ことは私は求めてなかった。ただ、毎日教室で会って話して「あー好きだなー」って思うのが一番好きが強いカタチだった。好きだけど付き合いたくはなかった。
中学生だからという話ではない。大学生になってからも、好きだけど付き合っても幸せじゃないとか、好きだけど触れたくはないとか、そういうのはある。
中学の同窓会にはいかなかった。迷ったけれど。LINEでグループが組まれて行われた参加、不参加のアンケート。ゆうは○だった。吹部の子もクラスで仲の良かった子もほとんど×。でも迷った。ゆうに会いたいような会いたくないような、ずっと迷ってたけれど。締め切り過ぎちゃってから幹事の子に不参加の連絡をして、しばらくした後私は一ツ橋へ映画の試写会に向かった。岩井俊二監督の「ラストレター」。松たか子さん演じるゆうりが、姉の同窓会に姉が亡くなったことを伝えるために行った同窓会で初恋の先輩である乙坂くん(福山雅治)に会うところから始まる物語。映画を見てるとどうもゆうのことを思い出さずにはいられなかった。高校時代の乙坂くん(神木隆之介)が美咲(広瀬すず)に宛ててラブレターを書く姿は、まっすぐに私に向けて好意を表していたゆうに重なった。映画の終盤、美咲の子どもに向けた遺書には卒業生代表の答辞が挟まれていることがわかる。それは美咲と乙坂くん共同で考えたものだ。美咲が子どもに残したかった言葉であるのと同時に、鬱病の美咲は乙坂くんを求めていたのが伝わってくる。同じ、なのかもしれない。試写帰りの電車の中で一緒に観た友だちにゆうのことを話した気がする。たぶん「同窓会に行きなよ」って背中を押して欲しかった。ゆうに会いたかった。その子は「同窓会行ったほうがいいよ〜」と言ってくれた。せっかく背中を押してくれたのに、今のゆうに会うのが怖いとかもう欠席連絡送ったしとか色々理由をつけて、結局行かなかった。負けず嫌いな私は、「あの時行けばよかった」なんて言わないけれど。
でも、あの中3の夏に告白して付き合ってれば良かったのにとか、今からでも付き合いたいとは思わない。LINEの一言をみるともう仕事をしていることがわかる。社会人3年目だね。元気ですか?今日LINEのアイコンを見たら成人式の写真に変わっていて、ちょっと顔立ち大人っぽくなったね。
あの時は話すだけで、授業中に目が合うだけで私は満足で、それ以外は求めなかった。彼に一度も「好き」だと伝えたことはなかったけれど気づいていたんじゃないかな。今も、過去に好きだった気持ちとか、彼が私にかわいいと言ってくれたことだとか、そうゆうキラキラしたことが私のなかに眠ってるだけで幸せだと思えるのだ。
ここには書きたくない、私だけの(彼も覚えていたらいいなと思う)キラキラした思い出が何個かあって、それを思い出すだけで今でも幸せな気分になれるのはゆうのおかげです。好きだったよ。