なんてことない猫になって
ごとんごとん
ごとん、ご、と、ん
ご、とん
列車は岬に近い街の駅に
ゆっくりとまりました
猫そっくりの毛糸屋の店主は
最終列車を降りました
月も星も隠れてしまったので
あたりは真っ暗
人らが灯りもなしに散歩するには難儀な夜です
店主はここぞとばかりに
瞳をまあるく
お髭としっぽをピン!
それから荷物を
おんぶしやすいようにまとめると
本当の猫のように
「にゃぁぁ」
一声鳴きました
そして
なんてことない猫の姿で
なんでもない風に荷物をおんぶして
闇の中を岬の自分の店まで
疾走するのでした
トーザ・カロットの岬には
今日もほんのひとしぼり分の
みかんの香りが紛れ込んだ
強い風が吹いているのです
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