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再び、毛糸屋さんのいない街駅


ごとんごとん

ごとんごとん

のんびりした音が近づいてきます


猫そっくりの毛糸屋の店主は

“毛糸屋さんのいない街”駅に

やってきました


あと数分で最終列車が到着する時間です

また何かを

さささささ! と編んでみようかと思いましたが

帰るまでは魔法を使わないことに決めて

ホームのみかんの樹をそっとなでました


さわさわざわざわ風が起こって

「またいらしてくださいね」

ふわふわした生き物の気配と

そんな声が聞こえました


店主は

みかんの枝に小さなブローチを

用心深くのせて

「きっと」

ふわふわの気配にそう告げると

着いたばかりの列車に乗りこんだのでした


少し膨れた旅行鞄

猫の手に持ちやすいよう

丁寧に包まれた風と花束

浮かんだままの不思議な海

みかんの香りと緑色の香り

数々の音霊


ごとんごとん

ごとんごとん

たくさんのお土産と店主を乗せて

列車は懐かしい街へと

走り始めました