手に余る彼女たち【短編小説】
目の前にはケーキが3つある。
1つは、ツヤツヤした黒茶色のドーム型に星屑が散りばめられている。
そこに赤紫の線が虹のようにドームをまたいでいる。
もう1つは、箱型に真っ白のクリームで模様が描かれている。
その上には何種類ものフルーツが盛られていて、海賊の宝箱のよう。
最後の1つは胡桃色のクリームが山のようにぐるぐると渦巻いている。
頂上には今にも転がり落ちてきそうな黄金の栗が輝いている。
そしてケーキを見つめる彼女たち。
駅前に小洒落たケーキ屋ができた。
有名なパティシエが地方に出店したお店らしい。
高いケーキと言えば小さいというイメージがあるこの町で、このお店のケーキは高いけれど小さくなく、どこから食べていいのかわからないほどデザインされたおいしいケーキらしい。
そこのケーキが3人の目の前にある。
「迷う~どれにしよう。全部食べたい!」
「ちょっと選ばせてよ~。あーチョコもいいけどモンブラン好きだしなぁ。」
「たっくんは食べないもんね。そうしたら私2個食べたい。」
「それはなし!半分こする?切ったら見た目悪くなりそうだけど。」
「え~・・・半分こイヤ、全部食べたい。」
どうしてアイツは3個買ってきたのか。
俺が食べないことを知っているのに。
同じものを2個でよかったんじゃないのか。まぁ、彼女たちがキャッキャッと選ぶ姿を見たかったのかもしれないけど。
このままじゃきっと・・・
「じゃんけんして、勝った方が好きなの選ぼう。余ったのは半分こしよう。」
「じゃーんけーんぽん!」
「勝ったから、このモンブランね。」
「あー!それがよかったのにぃ~。もう1回じゃんけんしよ!」
「じゃあ、チョコでいいよ。」
「ダメ、チョコは半分こ!」
たかがケーキ。されどケーキ。
キャッキャッがキッキーに変わるのも時間の問題だ。
しょうがない・・・
「ギャーッ!ギャーッ!」
「たっくん、どうした?抱っこしよっか?おっぱい飲む?」
「ママがおっぱいあげてる間にななちゃんチョコ食べる!パパ~、お皿とフォーク出してぇ~。」
「あーもぉ!ひとくち交換だよ!」
俺はこれから成長して、この彼女たちとうまくやっていけるだろうか。
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