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ママの秘密【ショートショート】900文字

エマには秘密がある。
保育園で一番仲の良いお友達のアリスや、大好きなケイト先生にも言ってはいけない。
「もしバレちゃったらお引越ししなきゃいけなくなっちゃうかも。そうしたら保育園にも行けなくなっちゃう。」
ママの秘密は誰にも言っちゃいけない。

エマはいつもママと一緒だ。
朝起きると隣にはママが寝ている。ママが寝ているからまた安心して眠る。
次に起きる時は、優しいママの声で目覚め、リビングに向かうと毎朝違うアロマの香りに包まれる。
二人が離れるのは保育園の時間だけ。
寝る時もママはエマと一緒に寝てくれる。
天蓋の付いたシングルベッドにぴったり寄り添って、二人は眠りにつく。

オレンジスイートの香りが漂うリビングに向かうと、ソファにエマが着るハロウィンパーティーのコスチュームが置いてあった。
「ママ!素敵!この天使のお洋服!!背中の羽も、ハートの矢もあるのね!」
「可愛いエマに似合うコスチュームを出してみたわ。さぁ着てみて。よぉく見せてちょうだい」
ダイニングテーブルにはたくさんのお菓子。
その中にはママが出したクッキーやパウンドケーキ、チョコレートもある。
「ママ!楽しいハロウィンになりそう!ねぇ、私も大きくなったらママみたいにできる?」
「えぇ、きっとできるようになるわ。だってママの娘だもの」

月日が流れ、エマは可愛い男の子を生んだ。
夫はこの子の愛くるしさを見ることもなく去っていったが、エマは一人で息子のユーリを愛情込めて育てた。

「ママ!このドラキュラの服、とってもクールだね!ねぇ、この絵本みたいに帽子もあったらいいと思うんだけど、どう?」
ユーリが絵本の表紙に描いてあるシルクハットを指した。
「うーん、お菓子もたくさん用意したから、もう力が残ってないのよ。ごめんね」

エマはユーリの可愛い寝顔を見てからそっとベッドを抜け出し、ネットで買っておいた生地を戸棚の奥から取り出した。
ミシンに向かい、ユーリがコスチュームを身に着けた可愛い姿を想像し、針を進める。
毎晩は身体がもたないので、ユーリの大好きなクッキーは仕事の休みをとって生地を作り溜め、冷凍庫の奥に隠しておく。

そう、ママがエマにしてくれたように。
エマはユーリの魔法使いになったのだ。

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