ショートショート|半透明人間、部活やめるってよ
「おい、半透明人間」
「なんだよ。その呼び方、やめろよ」
「だって、お前の母ちゃん透明人間だろ」
「いや、父ちゃんは普通の人間だし」
「そうそう。透明人間と普通の人間のハーフ。だから、半透明人間じゃん。実際、微妙に透けてるし。存在感も薄いし」
「うっせーな。で、なんの用だよ」
「……サッカー部、やめんの?」
「うん、辞める」
「なんで?」
「なんで、って……めんどいから」
「なにが?」
「色々」
「色々じゃわかんねーよ」
「だりーな。なんでお前に話さなきゃいけねーんだよ」
「そんなもん、友だちだからだろ! お前にやめてほしくないからだろ!」
「苦しいわ、離せよ。どーせ真面目にやってたって、試合にも出れねーし」
「まあ、存在感ないからな、お前。実力うんぬん以前に、監督に気づかれてないんだよ」
「奇跡的に出場したところで、誰もパスくれねーし」
「チームメイトもみんな、お前のこと見失っちゃうからな」
「……たまにボール奪っても、敵も味方もみんな全速力で突っ込んでくるから、超怖えーし」
「みんなボールしか見えてないからな、文字通りに」
「うるせーな! なぐさめてーのか、からかいたいのか、どっちなんだてめー!」
「ぎゃっはっは。なあ、半透明人間」
「……なんだよ」
「本当のこと言えよ」
「なんだよ、本当のことって」
「あんだろ、まだ言ってないこと。自分だけで抱え込んじまってる悩み事」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……あのさ」
「うん」
「誰にも言ってなかったけどさ」
「うん」
「こないだ、俺んとこ、妹が産まれたんだ」
「まじかよ、おめでとう」
「それが、母ちゃん浮気してたみたいで」
「え?」
「……妹、完全な透明人間なんだ」
「……」
「それで、父ちゃんと母ちゃん、毎日ケンカしてて。なんか離婚しそうでさ」
「……」
「俺、もう、サッカーとかどうでもよくなっちまってさ」
「……なあ、」
「なんだよ」
「透明人間が透明人間を出産するときって、誰がどうやって取り上げるんだ?」
「知るか!」
<了>
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