見出し画像

ショートショート|パパが家を出ていった話

 その日、パパは帰ってこなかった。
 子どもの僕にだって、わかる。女をつくって出ていったのだ。
 リビングでママが泣いている。

 僕はポケットから、くしゃくしゃになった手紙を取り出した。
 今朝、出ていく直前のパパから渡されたものだった。
 不器用な手書きのことばが、淡々と刻まれていた。


水……30リットル
大豆……8キログラム
マーガリン……7.5キログラム
塩コショウ……3キログラム
白米……500グラム
クミンシード…………


 女の原材料だった。
 続いて、何十工程にもわたる女のつくりかたのレシピが、事細かに記されていた。

「あなた……おめでとう、ついにやったのね……」

 リビングから、ママの感涙の声が漏れ聞こえた。
 パパは、女をつくった。3年前に男をつくって以来の悲願だった。

 これで、パパは人間の男女をつくることに成功した。
 今回の報告書が受理された場合、パパは新世界の神として君臨することになる。

 この家にはもう、帰ってこない。

<了>

いいなと思ったら応援しよう!