【ネタバレあるよ】岡村靖幸TOUR2024-2025「芸能人」
“ダンス×ダンス×ダンス めかし込んで踊りに行こうよ”
と歌う岡村ちゃんの素晴らしいところは、みずから率先して踊ってくれることではないか。誰よりも無邪気に、誰よりも軽やかに、誰よりも音に乗って。
最近はライブごとに書いている気がするが、今回もまた更新してきた! と唸らせる素晴らしいパフォーマンスが体感できたライブツアー「芸能人」。
2024年前半は、斉藤和義とのユニット「岡村和義」での活動が主となったが、これが至極ベストな組み合わせだったのは、ファンのみなさんであれば頷けるところだと思う。70〜80sの洋楽や歌謡曲といった、自身を育んだ音楽へのストレートな愛を感じさせる懐かしくもポップな楽曲群、生音重視のライブなども大きな魅力。そして何よりも、斉藤和義とミュージシャンとして、また等身大で付き合える友人としても存分に相性が良く、普段のライブやメディア出演では見られない岡村ちゃんの表情がいろいろ垣間見えたのが嬉しかった。例えば斉藤和義の下ネタが過ぎると岡村ちゃんが抑えようとする流れとか。
楽曲では特に「サメと人魚」「愛スティル」が好き。あと、ライブではラストに披露された「少年ジャンボリー」。
さて、岡村ちゃん単独のライブツアーとしては「元気です」以来、1年ぶりとなる「芸能人」を、京都ロームシアター(サウスホール)、渋谷LINE CUBE、新潟りゅーとぴあの3箇所で鑑賞。
珍しく三味線なんかのサンプリングを取り入れた和テイスト満載のSEから連なるオープニングは、SUPER EIGHTへの提供曲「ハリケーンベイベ」。幕が開くと同時に姿を現したのは、ド派手なリップスーツを身に纏った岡村ちゃん。これはインパクト大。ちなみにSUPER EIGHTと共演を果たしたFNS歌謡祭を経たあとのライブでは、彼らの振り付けもさりげなく取り入れているのが◎。
「ハリケーンベイベ」、サウンドとしては「ビバナミダ」の兄弟曲とも言えるエレクトロ・ファンクポップであるが、ライブで聴いて良さがさらに増した一曲。
「愛の才能」や「成功と挫折」などが挟まれたあと、序盤にドロップされた恒例の洋楽カバーは、ロバータ・フラックやビル・ウィザース、EW&Fといったソウル~DISCOからセレクト。前回、前々回のニューウェーブなノリとは異なるシックな装いに。
一方で、近年のライブではもっとも盛り上がる「ハレンチ」は、一回目のアンコール中盤で。もしフェスとかイベントに出演するとしても、この曲をぜひ入れてほしい、と切に願う普遍的なダンス・アンセムに仕上がっている。歌詞においても、近年のトー横〜大久保界隈の問題を見ていると、あの頃の岡村ちゃんの、時事問題に対する切実な苦悩は間違いではなかったのだなと実感する。あれからおおよそ30年が経とうとしているが、言葉がリアルに、解像度を高めて活きてきている。
特筆すべきところとしてもうひとつあげたいのはダンス。そのボリュームが増えているし、しなやかでキレも増しているし、なんならシャツの胸元もギリギリまで開けるし。あれだけの運動量の中で歌唱するわけだけど、後半に向けてどんどんボーカルもあたたまっていく様子は圧巻。全身で情熱を表現している。
楽曲で推したいのは、「DATE」の語り入バージョン(!)から「祈りの季節」への繋ぎと、なかむらしょーこのベースが映えに映える「19(nineteen)」~「聖書」の繋ぎ。腰の入ったうねるリズムが高揚感を生んでいる。さらにさんざん踊ったあとにこれを持ってくるか、と、一回目のアンコールラストに配置されたのが「できるだけ純情でいたい」。キメキメのロングアウトロは今回も健在だ。
しかし、「ハレンチ」~「ア・チ・チ・チ」~「できるだけ純情でいたい」を立て続けでパフォーマンスする岡村ちゃんの凄まじい体力と集中力には感服する。覚悟が決まってるなとも思うし、今の自身に自信がないとできないことだろう。
弾き語りコーナーでは「友人のふり」を中心に、りゅーとぴあでは「SWEET MEMORIES」も聴けた。「ジャストポップアップ」版はもちろん素晴らしいけれど、現在の弾き語りもじつに渋く引き寄せられるものだった。
サプライズとしては、渋谷LINE CUBE公演でアイナ・ジ・エンドがゲストで登場。『水星の魔女』のイベントでも無二のパフォーマンスを繰り広げ、あっさりと会場を掴んでいったアイナちゃんだけど、この日は渾身のバラード「私の真心」を岡村ちゃんピアノ+バンドで。アドリブでも全く引けを取らない熱唱は耳に胸に焼き付いたまま。
一曲だけと思いきや、プリンス「I Feel for you」ではダンスで参加! ファンキーでコンテンポラリー。レアな取り合わせで激しくもだえました。
もうひとつ、りゅーとぴあでは、あんまりライブでは演奏されないシングル曲「ラブメッセージ」が。これは深読みの類なので個の意見として聞いてもらいたいが、タイミングも含め、星野源への応援という意図があったのではと思っている。タイアップとは言え、(タイトルが同じだということもあって)制作者個人の想いがまったく無効化されてしまう悲しみは、アーティストだったら強く揺さぶられるはず。幸い、「ラブメッセージ」はタイアップ先とタイトルが違うわけだけど、それだって公の場であれば突っ込まれる可能性もあるだろうし。オリンピックのときも思ったが、不特定多数が注目するハレの場においてはまだまだ敏感にならざるを得ないのは事実だろう。
それ以外にも、「ビバナミダ」の振り付けが変わったとか、ステージ後方にどんと吊るされているピーチマークがカラーを制御できる仕様にグレードアップしたとか、照明も、モノクロ調にバンドメンバーを照らすようなバリエーションを獲得していたとか、サウンドのみならず改善が進められているのが窺えた。そしてどれもが良い方向に進んでいる。
2000年代/2010年代は、岡村ちゃんの「今」を確認しに行くことがDATEの目的であった。生で観られることがまずレアであり、最大の喜びとしてあった上で、そこでのパフォーマンスがどうなっているのか、ダンスは?歌は?バンドのサウンドは? 新曲はあるのか、ないのか。そのすべてが若干の緊張と不安に彩られてもいた。
コロナ禍におけるマスク越しのDATEと、閉館した中野サンプラザでのラストライブを切り取った映像作品『アパシー』を鑑賞して、そのシンプルだが胸を打つ内容に、確認のためのDATEという、そうした個人的な心構えはもう必要ないのだなと思うことができた。「アパシー」以前/以降で分けられるほどの分岐点だったのではと、「元気です」、「芸能人」を経て感じている。
だから、今はただDATEが楽しい。なんの構えも必要がなく飛び込める。そして飛び込めば、その想像を超えたエンターテインメントとして打ち返してくれる。唯一懸念があるとすれば、岡村ちゃんも書籍などで口酸っぱく言っている(こちら側の)「健康」の維持だろうか。
それくらい期待できるし、ソワソワできるし、観終わったあとの満足度も高く、未来に思いを馳せることができる跳躍力にあふれている。音楽好きの友人たちに、強く勧めることもできる。
岡村ちゃんのDATE、その本質を知ることができるのはこれからなのかもしれない。楽しみは、まだまだ尽きないのだ。