原稿用紙一枚分の物語 #3 『戻り雨』
近所まで出た帰り道、急に土砂降りになった。
走り出して間もなく、雨は止んだ。
ただ振り返ってみると、10m先はまだ降っていた。
境界に出会って少し驚いたが、
局地的豪雨は、今やそうそう珍しくもないのだろう。
家に帰ると、明らかに自分のものではないが、
見覚えのある靴があった。
部屋に入ると、
「どこに行ってたの?」
居るはずもない元嫁が台所に立っていた。
なぜなら、半年前に妻が浮気相手と出て行き、
先週ようやく離婚が成立したばかりだったからだ。
その瞬間、あることが頭を過った。
すぐさま外に飛び出た。
今来た道を懸命に走った。
途中、最近開店した美容室の扉に「テナント募集」の貼り紙。
一年以上前に戻っている。
もうさっきの場所に雨はない。
どこだ。辺りを見回してようやく見つけた。
が、もう小降りになっている。
全力で走った。
走りながら悩み続けた一年間が、
走馬灯のように過ぎた。
彼女への思いが溢れた。