【学生Fエンジン開発】サージタンク容積について(スロットル下流容積の概念)
学生フォーミュラのエンジン開発で、最初の関門は吸気系設計です。学生フォーミュラのレギュレーションにおいて、自然吸気の場合、リストリクタの取り付け位置はスロットルバルブ下流であることが定められています。各チームはスロットルバルブの下流に、リストリクタによる流量低下を最小に留めるための配管と、気筒間のばらつきを抑えるためのサージタンクを設けています。
ここではサージタンク検討時に陥りがちな、サージタンクの容積が大きい事によるネガ要素について解説します。
スロットル下流容積
一般的な乗用車はサージタンク上流にスロットルバルブを設けており、学生フォーミュラと同じレイアウトです。(おそらく、学生フォーミュラのレギュレーションが乗用車のレイアウトを踏襲しているのでしょう) 一方でバイクのエンジンではスロットルバルブは各気筒ごとに、エンジンの直近に配置されています。乗用車エンジンとバイクエンジンではスロットルバルブ下流の容積が異なり、それぞれ設計思想が異なります。
スロットルバルブ下流の容積の大小は主に低負荷域の燃焼安定性やエンジン加速時の応答に大きく影響してきます。
アクセル応答性
スロットル下流容積はエンジン応答性に影響します。ドライバーはアクセルペダルでスロットルバルブの開度を操作し、エンジンに入る空気量を制御しています。そのため、スロットルバルブ下流容積が大きいとアクセル操作に対する空気量変化にラグが生じます。バイクが各気筒にスロットルボディを備えているのは、アクセルを足で操作する自動車よりも手で操作するバイクの方が、高い応答性を要求されるため、コストを犠牲にしても1気筒ごとにスロットルが必要ということでしょう。
アイドリング不安定
アイドリング状態ではスロットルバルブの開度を絞り、エンジンに供給する空気量を制限しています。この時、スロットルバルブ下流の容積部、サージタンクの内部は負圧になっています。吸気バルブと排気バルブが同時に開く瞬間、つまりバルブオーバラップのタイミングで、吸気圧力より排気圧力が高いと排ガスが吸気に逆流する現象が起きます。吹き戻しが多いと、サージタンク内は排ガスの混ざった空気に満たされ、アイドリング不良やバックファイアなどの現象に繋がります。スロットル下流容積を大きくすると、この逆流現象が起こりやすくなります。
逆流現象とスロットル下流容積の関係を簡単な模式図で説明します。(手書きの図ですみません…)
横軸はクランク角度(時間)で、上に書かれているのは給排気バルブのタイミングチャートです。下のラインはスロットル下流容積内の圧力の推移(イメージ)です。Aの容積が小さい場合、吸気バルブが開きピストンが下降するタイミング(吸気行程)での圧力の落ち込みが大きくなります。しかし、容積が小さいために吸気行程以外での圧力回復も早く、オーバラップ時の圧力は大気圧近くまで戻ります。Bのスロットル下流容積が大きい場合はその逆で、圧力回復が遅くオーバラップ時の圧力が低くなるため、排ガスの吹き戻しが起こりやすくなります。
逆流現象の起こる要因を箇条書きでまとめると、
①スロットル下流容積が大きい
②カムのオーバラップが広い
③排気圧力が高い
①のスロットル下流容積についてはここまで述べたように、本来はエンジン直前に配置されているスロットルバルブを、学生フォーミュラのレギュレーションに則るためにかなり上流に配置しサージタンクを設けているため、かなり大きくなっています。
②のカムのオーバラップについて、バイクのエンジンは自動車エンジンと比べ、高回転時の吸入空気量を高めるために、カムのバルブオーバーラップは自動車用エンジンと比べてかなり広く設定されています。
自動車の吸気系は学生フォーミュラ車両と同じ構成ですが、サージタンク前提でエンジンのバルブオーバラップを狭く設計されているため、このような問題は起こりません。
③の排気圧力については、アイドリングの騒音規制をクリアするために排気出口を絞るチームが多くみられます。アイドル不安定→アイドル回転数を上げる→騒音NG→排気絞る→アイドル不安定 という負のループに陥る可能性があります。
まとめ
・学生フォーミュラのレギュレーションにより、スロットルバルブはリストリクタの上流に1つと定められている。このため、多くのチームはスロットルバルブ→リストリクタ→サージタンクという構成になる。
・スロットルバルブ下流容積が大きいレイアウトと、バルブオーバラップの広い2輪用エンジンの組み合わせにより、アイドリングが不安定になるケースがある。
・スロットルバルブ下流の容積が大きいとアクセル操作に対するエンジンレスポンスが悪化する傾向にある。
次週はこれらの問題を解決するアイデアを話してみたいと思います。
最後に、過去に車検リーダーを担当されていた川崎重工の本田さんが、これに関連する有意義な資料を公表して下さっています。
(PDFへのリンクが貼れなかったので)
「学生フォーミュラ仕様の吸気系について」で検索してみてください。
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