【学生Fエンジン開発】エンジンの適合
学生フォーミュラ車両はバイクの純正状態から給排気系を変更するため吸気特性が変化し、純正のECUでは燃料噴射量や点火時期にアンマッチングが起こります。そのためサブコンECUやフルコンECUを使って車両に合わせた適合値を設定してやる必要があります。
今回は初参戦のチームや、初めて適合をする人向けに、基礎的な内容を解説します。
●エンジン適合とは何をするのか
エンジン適合とか、エンジンに付属するデバイス全般の動作条件を設定する事を指しますが、学生フォーミュラ向けに端的に言うと、点火時期と燃料噴射量の設定値を見直す事です。
吸気スロットル開度(すなわち吸入空気量)とエンジン回転数を縦軸と横軸に取った表の中に、ひたすら値を埋めていくイメージです。
●燃料噴射量
エンジンに噴射するガソリンの量です。インジェクタの通電時間で表される事が多いです。ガソリンエンジンでは吸入空気量に対して適切な割合で燃料を供給することが重要なため、噴射量適合の際には空燃比センサ(AFRセンサ、A/Fセンサ、ラムダ(λ)センサともいう)が必須です。
●空燃比
空燃比(AFR:Air /Fuel Ratioの略)は投入された燃料と空気の質量比です。燃料が過不足なく空気と反応する比率を理論空燃比(ストイキ)と呼び、一般的なガソリンの場合は14.7と言われます。市販車では三元触媒を機能させるために空燃比をストイキ付近に制御とする必要がありますが、学生フォーミュラでは排ガスを気にする必要は無く、ストイキを狙う必要は必ずしもありません。
最も出力が出る空燃比はおよそ12.5〜13.5あたりで、これを出力空燃比と呼びます。走行に使う領域では出力空燃比を狙って燃料噴射量を適合すると良いでしょう。
●点火時期
点火プラグに通電し、エンジンを点火させるタイミングの事を指します。上死点(TDC:Top Dead Center ピストンが一番上に来ているタイミング)を基準としてクランクの角度で表されます。一般的に点火時期は上死点よりも前にくることが多いです。
点火時期を早めること(-20deg.→-25deg.のように)を進角と呼び、点火時期を遅くすることを遅角と呼びます。
※注意
適合ツールによって正負の符号は様々で、上死点前30度を-30°と表現することも、+30°と表現することもあります。どちらが間違っているということも無いですが、点火時期を変更する前に確認するようにしましょう。ここでは上死点前をマイナス表記で統一します。
●適合の進め方例
適合作業の際、エンジンベンチを使用できれば理想的ですが、ベンチ設備がない場合は車両状態で走行させながらトライ&エラーせざるを得ません。エンジン回転数、スロットル開度、空燃比は最低限、走行中にデータをロギング出来るよう準備しましょう。
また、ゼロからエンジン適合を行うのは非常に困難で時間もかかるため、純正の適合値を参考に調整する方が良いでしょう。例として、適合のステップを
①純正給排気、純正ECUの適合値を調べる
エンジンメーカーが仕上げた適合値をお手本にするため、純正状態のデータを取ります。
燃料噴射量と点火時期、空燃比をモニター出来れば十分です。
②学生F車両の給排気系、純正ECUで純正給排気と比較する
同じ適合値を使い、空燃比がどう変化するかを確認します。同じ適合値で空燃比が濃くなる場合は、純正給排気系よりも吸入空気量が減少している、といったように、製作した給排気系の評価も可能です。
③燃料噴射量を適合する
製作した給排気系で空燃比を合わせていきます。
純正車両でストイキに設定されている領域をリッチに設定することは特に問題ありませんが、純正車両でもリッチに設定されている高負荷領域はノッキングが起こる可能性があるためリーンにしすぎないように注意します。
A/Fセンサさえあれば、①②を省略しても燃料噴射量の適合は可能ですが、純正に比べて噴射量をどう変化させたかは、次の点火時期適合で参考にする事ができます。
④点火時期を適合する
点火時期は設定を誤るとノッキングが発生し、エンジンが破損する可能性があるので慎重に設定します。一度に変更するのは±2°程度が良いでしょう。
最適な点火時期は、低負荷(低スロットル開度)=空気量が少ない時には進角気味に、高負荷=空気量が多いときには遅角気味になる傾向があります。つまり、同じ燃料噴射量で運転した①純正給排気系から②学生F給排気系仕様に替えた際の空燃比の動きから空気量増減が分かり、適正な点火時期が進角側に移ったか、遅角側へ移ったかが分かります。
●インジェクタの流量特性
インジェクタの通電時間に対する流量特性が分かれば空気量の定量的評価が可能です。
ガソリンの噴射量が分かる
→A/Fで吸入空気量が計算できる
→排気量に対する充填効率が計算できる
→給排気系変更による空気量の増減が計算できる(給排気設計が定量的に評価できる)
上記のようにシミュレーションで設計した給排気系に対し、実験結果をフィードバックできれば、デザイン審査にも評価される要素になるかと思います。是非定量評価にトライしてみてください。
●おわりに
エンジン適合について、ざっくり基礎的な事を書きました。細かい注意点など、書ききれない事は沢山ありますので、その辺りはおいおい触れられたらと思います。
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