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通勤電車


下車するところでベビーカーの車輪が電車とホームのあいだに挟まって立往生していた。なんの気負いもなく手を伸ばし、ひょいっとベビーカーを持ち上げて手助けした。「あ、ありがとうございます」母親とその母(お祖母ちゃん)は恐縮して身を縮めながら去ってゆく…

そんな場面でバアチャンはつい、昔のことに思いをはせる。社会人になったばかり20代の頃、千代田線と山手線を乗り継いで神田へ通勤していた。あの頃の通勤人たちは同じ電車に乗り合わせただけで結束があり、カバンがドアに挟まると付近の人がサッと手を出しドアをこじ開けて救助する。恐縮とかのなしに、すべて当たり前に無言で行われる。サラリーマンしぐさ?昭和しぐさとでも言うのだろうか。私はよく下車時にボーっとして躓いたり、押されて転びそうになったりして、いちばん酷かったのは電車とホームの間に足を突っ込みそうになって、いずれも両脇にいた人に抱え上げてもらって事なきを得た。一瞬の出来事で誰が恩人かもわからず、お礼も言えず、怒涛のような人波に流されて職場に到着。同じ車内で押し潰されそうに耐えた者同士は味方なんだってか。

今がどう昔がどう、とも思わないけど。電車のドアも今はきっと、すごい建てつけがよくて簡単にこじ開かないし、危険な行為はお止めください!って流れになっているんだろうね。コロナがあって他人とは可能なかぎり距離をとっておかなくちゃと思ってしまうし。へたに女性に触れるとチカンと間違われるし。今はむかしのタワゴト。

あの頃、山手線の窓から神田市場が見えた。あれ撮っておきゃよかったな。

神田駅西口の商店街には、蕎麦屋の出前する自転車が行き交っていた。何枚も重ねたザルそばを肩にのっけてスイースイーと。まるで曲芸に思えて、毎度口開けて眺めてた。あれも「昭和しぐさ」と言えるかしら。


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