薬膳cafe五花 12月 : クリスマスプレート #13
鼻歌をうたいながらディナータイムの準備に取り掛かっていた。
フンフンフンクリスマース♪
ハッピーニューイー♪
フンフンフンフンフーン♪
「店長ごきげんですね」
「まぁね〜」
商店街で流れていたハッピークリスマスが頭の中でリフレインしている。
アルバイトのモモ君は早めに来て、スマホを眺めている。
「インスタのフォロワーさん増えましたよ」
インスタグラムは先月モモ君が「お店のアカウント作りましょうか」と言ってくれて開設したのだった。
SNSはよくわからないのでおまかせしている。
「わ!お店のインスタにDMが来てましたよ。えーっと…これ…今日の予約じゃが。…なんか店長の知り合いみたいですけど」
「えっ、本当?!どれどれ見せて」
手渡されたDMの画面を見てびっくりしてギャッとスマホを落としそうになった。
『こんにちは。急ですみませんが今日の19時から予約出来ますか?1人で伺います。インスタでお店の場所を知りました。倉田さんのお顔を久しぶりに見たいです。 上野 悦子』
「お、鬼軍曹だー!!」
「え?!誰ですか?!」
「元職場の上司だったんだけど、厳しくて部下達に鬼軍曹って呼ばれていたの。東京に戻ってしまって20年位会ってないんだけど…」
私は動揺して、胸に手を当てながら説明した。
「20年って……凄い昔ですね。ははは…」
「生まれてないかな?」
「ですね。予約どうします?」
「予約は今のところ1組だけだから大丈夫。OKです。返信お願いしてもいいかな」
急な事でびっくりしたが、とても嬉しい。
鼓動が高まり、鼻歌を歌うどころではなくなった。
𓂃◌𓈒𓐍
開店後徐々に客足が増え、店内は賑わっていた。
ツリーの灯りは控えめに点滅し、クリスマスジャズが静かに流れている。
寒波が到来し冷え込みが厳しいので、店内はいつもより暖かくしている。
そして19時にその人は颯爽とやって来た。
カランカラン……
「いらっしゃいませ」
入り口を見ると、昔の面影を残す懐かしい顔があった。
私は思わず駆け寄った。
「わ〜、お久しぶりです。ようこそおいでくださいました」
「お久しぶりね、倉田さん。まさか東京であなたに会えるなんて」
懐かしい暖かみのある声だ。
厳しさの中にも優しさのある上司で私は慕っていた。
「本当ですよねぇ…」
「こちらに来てお店をしていることは聞いていたわ。クリスマスに来てごめんなさい。たまたまこの辺りで仕事があって」
「とんでもないです。気にかけていただいて嬉しいです。どうぞカウンターへ」
私は一番奥のカウンター席に案内した。
「ありがとう」
まだ話をしていたかったがそういうわけにもいかないので、モモ君とバトンタッチしてキッチンに戻った。
𓂃◌𓈒𓐍
「お待たせいたしました。クリスマスプレートです」
日替わりプレートをいつもより洋風にクリスマスを意識したメニューにした。
「あら、薬膳っぽくないのね。簡単にメニューを説明してくれる?」
わぁ。指導を受けていた遠い昔の記憶が一瞬蘇る。
「はい」
◯金柑と豚肉の煮込みバルサミコソースかけ
◯ベビーリーフとグレープフルーツのサラダ
◯サーモンのリエット
◯ひじきとしめじの洋風炒め
◯バケット
◯野菜のコンソメスープ
それぞれのメニュー名と簡単な薬膳の説明をした。
「ありがとう。ゆっくりいただくわ」
「はい。どうぞごゆっくり。あとでデザートもお持ちします」
私はお辞儀をしてキッチンへ戻った。
𓂃◌𓈒𓐍
デザートはクコの実や胡桃を入れたパウンドケーキとホットマサラチャイのセットをチョイスされた。
上野さんはタブレットを見ながらゆっくり口に運んでいる。
忙しなく業務をこなしながら、また新人の頃の緊張感を思い出した。
目配り、気配り
背筋はピン
口角をあげて
当たり前のことをコツコツと。。
クリスマスに忙しかろうとやっぱり私はこの仕事が好きなんだなぁ。
時計が20時半を過ぎたところで上野さんが席を立った。
「ありがとうございます」
モモ君が元気にお礼を伝えお会計を済ませてくれた。
店の外まで私が見送る。
「居心地が良くて長居しちゃったわよ。身体に優しいお料理ごちそうさまでした。また立ち寄らせてもらいますね」
「わぁ。嬉しいです。ぜひまたお越しください」
「ありがとう。あの純朴だった田舎の子が東京でどんな風に頑張っているか見てみたかったの。倉田さん、良い感じに歳を重ねているわよ」
「えっ…。本当ですか…。ありがとうございます。…上野さんは、ますます颯爽と格好良くて素敵です」
「ほんとー?!鬼軍曹じゃなくって〜?!鬼軍曹は令和の前に引退したけどね」
面白そうにケラケラ笑っている。
「鬼?!いやぁ〜…知って…いらっしゃったんですか?!」
「もちろんよ」
顔を見合わせて笑ったが、寒さで頬がひきつってきた。
「あー、寒いねっ!!ほらほら、お店に入って。風邪ひかないようにね」
「はい。上野さんもお気をつけください。教えていただいたこと、つくづく今に生きてると思いました。ありがとうございました!!良いお年を」
「はーい。ありがとう。良いお年をー」
上野さんはまたねと手を振って帰っていった。
受け取った嬉しい言葉は、最高のクリスマスプレゼント
赤いリボンをかけて心の片隅にそっと置いておこう…と思った。
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📝薬膳メモ📝
⚫︎冬の養生は寒さから身を守り身体を温める、腎を補う、乾燥に気をつける、体が縮こまりやすいので意識的に動かしたり食材で気血を巡らせる、質の良い睡眠をとる事など
⚫︎メイン料理の豚肉は腎を補う、乾燥を潤す、気血を補うなど。温でも涼でもない平性食材
⚫︎金柑は今が旬のおすすめ食材✨丸ごと食べられ香りが良いので気分をすっきりさせる、乾燥からくる咳を抑える…など。
⚫︎冬の五味は『鹹味』。塩辛い味をもつ食材を冬に適度に摂るとよい
⚫︎ひじきは鹹味に属する食材
⚫︎鮭は温性(身体を温める)気を補うなど
それぞれの食材の薬膳の視点をプラスすると日々の食生活が少し豊かに✨
ps…本当は昨日までにアップしたかったのですが間に合わず^^;
もうクリスマス気分じゃないと思いますがよろしくお願いします。
よいお年をお迎えください✨