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映画のエンドロールを見る人は、バンジー後の待機時間が必要な人だと思う。 (バンジージャンプ2/3)

料金を支払ったら、まずはハーネス。さっきまでにこにこ話しかけてくれていた陽気な係員さんが、真剣な顔になって何回もチェックしながら装着してくれた。しかも別の係員さんがダブルチェックをしてくれたから、安心感は十分だった。

そしてGoProの説明を受けた。どこを押したら撮影が始まるのかとか、動画撮影中に写真も撮れるよ、とか。この日までGoProはテレビで芸人さんとリアクションを撮るのに使われているイメージだったから、個人的な思い出の記録にGoProを使うっていうのは思いがけないことだった。

準備ができたら、いよいよジャンプ台へ。ハーネスOK、GoProもOK。係員さんとお話してテンションもOK。

ちなみにこのときのバンジージャンプは、事前に宙吊りにされて、係員さんがロックを外すことで落とされる、というもの。自ら飛び降りるタイプの方が定番のバンジージャンプだろうけど、家から施設までのアクセスが良いし、勝手に落とされる方が短時間で終わりそうだったからこのタイプも良い。

バンジージャンプの台まで行くと、流石にちょっと怖じ気づく。でも係員さんと雑談している間に準備は完了していて、気づいたら宙吊り直前。その頃には怖さより興奮が大きくなっていた。係員さんと記念撮影しつつ、「いくよー」の掛け声とともに宙吊りされる。身体の下何十メートルも、なにもない状態。こんな状況はほとんどないから、緊張と期待で訳が分からなくなっていた。

すぐにカウントダウンが始まる。5、4、3、2!次の瞬間、内臓は全部浮いて、首が後ろにぐんっと持っていかれ、顔は天を向き、全身で風を浴びた。未開拓のスリルがそこにあった。「あれ、死ぬのかな?」落下後、1番めの思考はこれだった。自分の体がどんどん川面に近づいていく。いつ止まるんだ。でも落下のコンマ数秒の間に考えられることなんてそうなくて、死が頭をよぎっている頃には最下点を通過して、揺られていた。生還。安全。遥か遠くでこちらを見ている係員さんの姿を確認した。

身の安全を悟ったあとに襲ってきたのは喜びだった。ジェットコースターに飽きてきているけれど、まだバンジージャンプが残っていたんだ、と。絶叫系の天井はあんなもん(=今まで制覇したジェットコースターたち)じゃない。私を絶叫させてくれるアクティビティはまだまだ存在する。そんなことに気づいて安心もした。

落ちたらあとはぶらんぶらんと揺られながら回収を待つだけ。この時間は映画のエンドロールの時間に近かったと、後から思う。日常に戻るには大きくなりすぎている感情を、整理する時間。回収待ちの時間がなければ非日常から日常へ適応できずに、いつも通りの日常を送っている人には迷惑なほどの情緒を放ってしまいそうだった。

回収を待ちながら、「ひとりでバンジージャンプの怖さと戦って、普通じゃない量・速度の風を受けて、木々と川と岩に囲まれて、気分爽快とはこのことか」とか考えていた。森の中、川の上で宙吊りにされる機会なんてそうないし、季節と天気に恵まれて景色がよかった。あとで見返してこの気持ちを思い出せるように、とGoProで撮影しまくった。

バンジージャンプ台に回収されて後片付けをしてもらっている間、係員さんに話しかけた。「落ちるとき、びっくりしすぎて声が出ませんでした。」そう感想を伝えると、係員さんは、「めちゃくちゃ叫んでたよ。」と笑いながら言った。叫んだ記憶がない。というか気づいたら回収待ちの状態になっていたから、声を出せていたはずがない。私を弄ってそんなことを言ったんだろうと思って、係員さんの言葉を信じないまま帰宅した。

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