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人見知り夫の初パーマ



ある日私の夫が、「パーマかけたい」と言い始めた。
いつもは1000円カットで(最近1000円ではないらしい)、特に大きなこだわりなく散髪を済ませている夫の口から飛び出た言葉に「遂に本気を出そうとしてるな…」と思った私。
というのも、夫は昔から大泉洋が大好きで、大泉洋のあの天然パーマに異常なまでの憧れを抱いていた。
「俺も天パに産まれたかった」
「大泉くんみたいになりたい」
そんな言葉を聞く度に、私はパーマをかける事を勧めていたが、今やネットで簡単に出来る美容室でのパーマ予約を夫は頑なにしなかった。それもそのはず。
夫には難点があった。

おしゃべりが大の苦手なのだ。

そもそも美容室に行ったことがないらしく、未開の地に足を踏み入れる事や、美容師さんとのあのおしゃべりに強い恐怖心と緊張感を抱いていた。

私がいつもカットやパーマをしてもらっている穏やかでおしゃれな中村アン似の美容師さんを夫におすすめすると、
「グイグイくるタイプか?」
「めちゃくちゃ話しかけてきたりしないか?」
「グイグイくるタイプなのか???」
などと、出産後のパンダと同じくらい警戒心MAXな夫からたくさんの質問を投げかけられた。

中村アン似の美容師さんだって百戦錬磨の接客をしてきた中村アンなのだから、人見知りを察してくれるよと説明してもなかなか緊張は解けず、予約をした日の夜から「はぁドキドキする…」などとブツブツ言っていてなだめるのに随分苦労した。

そしてついに、パーマをかける当日を迎えた。

私「駐車場は銀行の正面にあるからね」
夫「わかんないな…」
私「この前美容室まで送ってくれたでしょ?」
夫「ちょっと…ん〜」
私「え?」
夫「駐車場わかんないから着いてきてくれないかな?」

私は駐車場を教える為に着いていくことになった。
美容室から自宅までは頑張れば歩いて帰れるくらいの距離だからまぁいいかと思い、助手席から駐車場の場所を案内した。

駐車場にて
私「じゃあ頑張ってね!」
夫「ちょっと…どの建物かわかんないな〜〜」

いや、調べなよ
というか、本当は知ってるだろ
何回か迎えに来てくれてるじゃないか。

私「じゃあ建物の入り口まで案内するよ」
夫「はぁ緊張する、どうしよう…髪切る時に体に掛けられる、てるてる坊主みたいになるあの布掛けられたまま美容室飛び出してきちゃうかも。」

怖すぎるだろ。
そんな事されたら私もう行けないじゃん
夫婦で出禁にされたらどうするんだ。

カットとパーマをかけてる間、家に帰るねと伝えると何故か許されなかった。
夫「あそこのカフェでお茶してなよ〜」
私「いや、帰るよ」
夫「いいから、お茶してなって!あぁ緊張する!ヤニ吸っとかなきゃな!」
そう言いながらiQOS何本も吸っていた。
駐車場に着いてから何本も。
目が血走っていた。


建物の入り口に着くと急に試合前の格闘家のような目付きになって、呼吸を整え始めた。

いや、そんなに?
「殺ってやる」って目やめて?
そう思ったがセコンドとしては何も口出しせずにその精神統一を見守るしかなかった。


夫が美容室に入って行くのを見守ってから、私は夫に言われるがままにカフェに行った。
カフェでは美味しいフルーツサンドを食べながら紅茶を飲んだり、カフェに置いてある雑誌を読んだりし、私はふと思った。

「私のこの時間は何???」


2時間ほど経った頃だろうか。
髪を乾かしているというLINEが来たので、駐車場で待とうと思い外を見ると大雨が降っていた。傘は持っていない。

「いやもう、何!?!?!?」



少し時間を置くと雨は弱くなったが、それでも傘無しじゃかなり濡れてしまうくらい降っていた。
せっかくパーマをかけたのに、店を出てすぐにずぶ濡れになるのは夫が可哀想だと思った私はカフェでお会計を済ませると、近くのダイソーまで走って行き(普通に濡れた)、ビニール傘を買って、店を出ると雨はすっかりやんでいた。

「なんでやねん!やめさせてもらうわ!
どうもありがとうございました〜」
と漫才の終わりのアレを言いたくなるような気持ちになった。

ちなみに、カフェでの会計時、夫へのお土産にアイスコーヒーを買うと思いのほか値段が高く、少しうろたえて一瞬ハンギョドンのような顔になってしまったりもした。
なんだよ今日は。


そんなこんなで駐車場に着き、夫を待っていると、めちゃくちゃにイケメンな男性がこちらに向かって歩いて来た。
夫だった。
「もう全然いいわ、言う事ねぇわ
やっぱコイツつえーわ、もうダメだ、強い」
フリースタイルダンジョンの
呂布カルマvsR指定での呂布さんのような状態になってしまった。


夫「疲れたけど…まぁ…悪くないね」
コメント、中尾彬か。


本来ならおうちで軽いお昼寝ができる時間をカフェで過ごしたことや、雨に濡れたこと、ハンギョドンになったことなどは、もうどうでもよくなった。
やっぱりプロはすごい。
中村アンありがとう!!!!
今度からは夫が1人で美容室に行けますように。


では、また。


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