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ダメな先輩と出来る後輩、あとマティーニ

カクテルの王様と呼ばれるマティーニ。私はこれが未だに飲めない。それがなんとなくコンプレックスだけれど、飲めないものは飲めないのだから仕方ない。マティーニと名がつく飲み物の中で、私が飲めるのはエスプレッソ・マティーニだけ。しかも店によってはウォッカ・マティーニがベースだったりして、ステアではなくシェイクで作るところもとても多い。それはもはや、ボンド・エスプレッソ・シェイク・マティーニと名乗るべきなんじゃないのかとたまに考えてみたりする。まぁそれはさておき。この話は結構長いから、読みたい人だけ読めばいいと思う。

思えば私の後輩には、好んでマティーニを飲む人間が多かったように感じる。付き合っていた後輩のうちの一人をよく連れて行っていた新宿のBARムーンウォークで、後輩がしょっちゅう頼んでいたのがマティーニだったのである。

マティーニといえば後輩、後輩といえばマティーニ。私の中ではそんな感じのイメージが勝手に出来上がっていた。そんな後輩とは裏腹に、マティーニが飲めないダメな先輩こと私。頼むことも滅多にないし、前述の通りマティーニと名がつくものはエスプレッソ・マティーニしか飲めないし、これは基本甘いしで、私はつくづく格好のつかない先輩だなと思う。

で、少し前に二人の後輩と、それぞれサシで飲む機会があった。二人とも5〜6年ぶりの再会だった。

片方は大学の演劇部の後輩。立派な役者になっていて、今現在も引き続いて舞台に立ち続ける優等生だ。前に舞台を観に行った時もとてもよく頑張っていた。仮にTとしよう。
もう片方も片方で夢を叶えていた。こちらは高校の頃の部活の後輩。応援団なんかも一緒にやった。実は一緒に飲むのは今回が初めて。詳細なことはあまり訊けなかったが、ある程度成功を納めているようだった。こちらは仮にRとする。

二人ともあまりバーには行かないようなので、先輩権限で店を決めてバーに連れていった。

Tは私が時々行くバーに連れて行ったので、私が常連扱いされている(あんまり常連ってほど行ってはないんだが……)のを見て「ほら常連って言われてんじゃん」との一言。余談だが何故かやたらとバーの方々に顔とか名前を覚えられやすいのである。職業柄というのはもちろんあるだろうが印象に残るらしい。流石に常連呼びは割と恥ずかしい。そして結構飲んでた。

Rの方は一軒目は居酒屋に行って、二軒目で新規開拓も兼ねて近くのオーセンティックバーに行った。何も知らないとか言って私に一杯目二杯目を任せていた割には三杯目でマティーニを頼んでいた。Rは噂で酒というか、アルコールには結構強い方なのは知っていたし、バーでは向こうも「度数が強い少なめのやつがいい、先輩に任せる」と言っていたので、カミカゼなどのショートカクテルを勧めたらやたらスイスイ飲んでおり、逆に心配になった。

意外に思われそうだが、私はそこまで酒に強くはない。飲むペースだけが人より少し早いだけだ。そして酒癖は良くない(自覚はある)。
結論として私自身、Tの時は一軒目でだいぶ酔っ払いアブサンを頼みダウン。Rの時は二軒目の後の三軒目でだいぶノリがおかしくなっていた。確かこの時もノリでアブサンを頼んでその後テキーラショットを頼んでいる。

後輩の話に戻るが、TもRも二人とも私にタメ口なのである。Tは私が留年してTの方が先に卒業しているからまだいいとして、Rの方は高校卒業まではタメ口ではなかった。よくわからなかったのでRに流石に理由を訊いた。即答で「○○(本名の苗字)先輩だけだよタメ口なのは」と言われ、あーやっぱりそうですかとなる私。いや理由はなんとなく分かっている。たぶん人からナメられやすいタチだからだ。特に年下に。

たぶんTから見てもRから見ても、学生時代から私は変わらずダメな先輩なんだと思う。『尊敬』の一言をこの二人から言われたことは、確かだけど全くない気がする。二人とも出来る後輩だから。それとも私がダメダメだから?

マティーニは、ある意味大人の象徴だ、と勝手に私は思っている。マティーニが飲めないのだから、私はまだまだお子様の類から抜け出せていないのだろう。

ダメな先輩、出来る後輩。でもこの構図、きっとこれから先も変わらないんだろうな。なんとなくそれを愛おしく思う私が今ここにいるから。

いいよ、ダメな先輩で。
すまんね、ダメな先輩で。

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