ニューオーダー
ニューオーダー(メキシコ・フランス:2020年)
監督:ミシェル・フランコ
脚本:ミシェル・フランコ
出演:ネイアン・ゴンサレス・ノルビンド
:ディエゴ・ボネータ
:モニカ・デル・カルメン
:ダリオ・ヤスベック・ベルナル
:ジャヴィア・セプルベタ
パッケージ裏の解説に監督が現代社会のディストピア化に警鐘を鳴らしていたが、観終わるとあり得そうだがあり得ない、あり得なそうだがあり得ると感じるも、救いのない展開と結末に滅入ってしまった問題作。バンバン人が物ように扱われ殺されるのが非常にキッツい。
豪邸では富豪の娘の結婚パーティーが盛大に開かれていた。しかしセレブたちが招かれている豪邸周辺には貧困を訴える民衆のデモが激化しつつある。元使用人の男が妻の手術のための高額な費用を富豪の妻に借用を頼みに行くが、タイミング悪くハレの日なので無下に帰される。それを知った花嫁である富豪の娘は元使用人を追いかけて若いセキュリティの男を連れて家を飛び出すが、それとは入れ違いに暴徒化したデモは豪邸にに侵入。暴行、強奪、殺人と無法の限りを尽くす。出かけたことで運よく難を逃れた富豪の娘だったが、街は暴徒で荒れつくして帰宅もままならない。軍が彼女を保護して自宅に送り届けると説明されるが、運ばれるトラックの中で対応が一転荒々しくなる。そこからが本当の惨劇の始まりだった。
ドキュメンタリーのように無情な暴力を延々観せられる。豪邸になだれ込んだ暴徒は貧富の差を訴えているが、一度外れたタガは取り返しがつかない衝動を産み、陰惨な暴行や強奪がありありと映し出される。しかも今まで邸宅を守っていたセキュリティはセレブ達を裏切って発砲し、使用人も金や貴金属、高価な衣服を強奪していく。人の浅ましさと欲望の醜さ、そして激烈な貧富の差による悲惨さを見せつけられ、気分は陰鬱になっていく。精神的にこたえたのは隠し金庫を開けさせられて、後頭部から射殺された母の死体がだらんと垂れ下がっているシーン。
何を言っても主役でもある富豪の娘が一番悲惨。元使用人を追って、若いセキュリティを伴って外へ飛び出すが、道々は軍によって封鎖されていて断念。一時若いセキュリティの実家に匿われるが、軍が保護すると彼女を連れ出す。しかし保護されるはずが、軍施設に連行されて激しい尋問を受け、大勢の人たちと拉致監禁されてしまう。軍は彼女の家族に身代金を要求し、彼女にここに書きたくない虐待を加える。そのシーンも淡々と映され、より残虐性が強調されるのが更につらい。
映画のタイトルがニューオーダー(新秩序)ということだが、延々とカオス的展開を見せつけられ感想考えるのもしんどい。悪が善を喰い潰すが、更に大きな悪が小さな悪を踏みつぶしていくという人間の業を見た。あくまでも映画の中のお話だが、現実世界でもあっちこっちで同じようなことが起きているのが本当につらい。だけど民衆が暴徒化すると鎮圧に廻るのが国家であり、現状を改善しようと働くのが統治機構だと思うので、現実的に見えてもどこかSF的なストーリーを感じる。
映画としてこの作品を観るには内容があまりにも一本道過ぎる。起承転結も、主人公のドラマはまったくなく、あくまでもドキュメンタリーの延長でしかない気がする。しかも問題提起をするだけであり、どうあればよい、そのためには何をすることが必要といった解決法示唆されていないので、ただ気分が悪くなっただけの作品。解説を見ると冒頭から出てくる緑の液体と血液の赤はメキシコ国旗を示唆しているらしいので、監督なりに映画的メッセージ性はあるんだろう。まぁ、オープニングから死屍累々が横たわり、男は血まみれ、女は全裸に剥かれて転がっているので、嫌な予感はしたんだが。これを名作と呼ぶにはオレには抵抗があるんだな。