裁判デジタル化が生産性を下げているーTEAMS裁判の課題
裁判の生産性を上げるための裁判のデジタル化ですが、弁護士側にとっては、生産性が下がっているように感じました。
この記事では、気が付いたことをつらつらとまとめておきます。
ログインが超面倒+毎日強制ログオフのダブルコンボ
まず、TEAMSにログインするためには、多要素認証が必要なのですが、その方法がとても面倒なMicrosoft Authenticator を用いた方式になっています。
しかも、PCのTEAMS上で表示された番号を入力し、かつ、iPhone場合は設定によってはFace IDでの認証まで必要になります。
せめて、単なるSMS認証にしていただきたいところです。
また、ログインが面倒であっても、いったんログインしてしまえば、端末を変更しない限り、ログイン状態が維持されるのであれば耐えられます。
ところが、最高裁のTEMASだけは、なぜか毎日強制ログオフさせられてしまいます。
そのため、超面倒なログイン作業を毎日しなければならないのです。
一刻も早く、毎日強制ログオフ&超面倒なログイン方式を変更すべきです。
事務員がTEAMSに入れない
仮に毎日強制ログオフをさせられるとしても、裁判期日以外でTEAMSを開かないのであれば、まだ耐えられます。
しかし、TEAMS上で裁判所書記官から、事務連絡が送られてくることがありります。
ところが、TEAMSには、法律事務所の事務職員はログインできません。
そのため、弁護士は毎日TEAMSを開くことを余儀なくされるのです。
裁判所書記官からの連絡は、パラリーガル職で対応する事務所もあります。
こうした事務所の場合、書記官からの対応に対して弁護士が対応せざるを得なくなり、弁護士の生産性が非常に下がります。
また、これまで書面の提出は、専ら事務職員の作業であったのに、TEAMSに事務員がログインできないので、弁護士自らがアップロード作業をしなければなりません。
困った私は「TEAMSは事務員が入れないので、日程調整などの事務連絡は、従前どおりFAXでお願いしたい」と書き込んだところ、驚いたことに「TEAMSを見てください」と書かれたFAXが送られてきたのには、さすがに笑いました。
日弁連は、一刻も早く、法律事務所の事務職員をTEAMSに追加するよう要望をすべきです。
仮に、セキュリティが問題だというのであれば、日弁連や弁護士会の研修を受けた事務職員だけでも構いません。
デジタル答弁・認否の方法が裁判体によって異なる
近年、東京地裁において、事実の認否について、準備書面とは別に「デジタル答弁・認否」が求められる場合があります。
しかし、この方式が裁判体によって全く異なるのです。
ある裁判体は、認める事実は黄色マーカー、争う事実は青マーカーと指定してきます。
しかし、別の裁判体は、認めるは直線での下線、否認及び争うは波線での下線、さらには理由について脚注で書けと指定します。
別にいずれの方法でもよいのですが、せめてやり方は統一してほしいところです。
mintsとの並行運用の煩雑さ
2024年12月5日、最高裁判所の担当局より、日弁連事務総長あてに、次のような通知がなされました。
この「mints」は、事務職員がいない、あるいは、事務職員が少数の場合には、FAXよりも楽だというご意見もあり、それ自体はご指摘の通りだと思います。
しかし、そもそもシステムを開発するならば、1つに統合するべきです。わざわざ2つのシステムにするべきではありません。
また、私が2023年5月時点で聞きとった仕様は、次のとおりとなっており、アカウント設計がやや面倒です。
というのも、弁護士1名あたり1アカウント登録をするのはよいのですが、弁護士1アカウントにつき登録できる補助者が1名までなのです。
また、1名の補助者が登録できる弁護士は3アカウントまでであり、1名の補助者が複数の弁護士を担当する場合、別のメールアドレスを用意しなければならないのです。
つまり、弁護士と担当秘書を担当制をとっていない場合は、この登録が極めて複雑になるのです。
こうしたアカウント設計の制限があると、かなり使いにくいので、補助者が1つのメールアドレスで複数の弁護士を担当できるような設計に変更していただきたいところです。
TEAMSは「Enter」キー送信禁止ができない
これは裁判所のせいではなく、TEAMSのせいなのですが、他のチャットツールでは当たり前の「Enter」キーでの送信をしない設定ができません。
以下のとおり、書式機能を用いるか、改行を「Shift+Enter」(多くのソフトは「Ctrl+Enter」では?)で行うしかないようです。
何のための裁判のデジタル化なのか?
こうしたやり方を見ていると、「何のための裁判のデジタル化なのか?」と疑問に思わざるを得ません。
デジタル化が目的化しているようにすら思います。
もちろん、移動時間がなくなったのは画期的ですし、その意味で生産性は上がりました。
しかし、これまでも電話会議で済んでいたわけですから、業務フローに事務職員が入れなければ、かえって弁護士の事件処理の生産性は下がってしまいます。
何のための裁判のデジタル化なのかを考え、適切な対処がされることを強く望みます。
もし、動かないのであれば、日弁連総会で動議を出してでも、実現しなければならないと考えています。
後日談
2024年12月19日追記
東京地裁ビジネスコートのある期日で、ある裁判官に対して、私の問題意識(特に、事務員追加の必要性)を伝えたところ、とても親身になって聞いてくださいました。
事務職員が少なく、ほとんどの業務を弁護士が対応している小規模街弁事務所ではなく、弁護士が大量の案件を抱えている中規模以上の事務所においては、こうした問題が生じていることを伝えさせていただきました。
こうした声が、最高裁の届くことを切に願います。