弁護士伊藤建の2024年
2025年になり、弁護士12年目に突入しました。
備忘のため、2024年にあったことを簡潔にまとめます。
最高裁関係
①NEM流出事件(初の最高裁弁論・有罪・確定)
2024年の目玉は、なんといっても人生で初めて最高裁で弁論をしたことです。
2022年末に上告趣意書を作成してから約1年放置された後、2024年2月21日に、最高裁から「弁論を開く」との知らせがあったときは喜びました。
しかし、検察官の反論書で、既に同種のNEM流出真犯人からの転得者につき、上告棄却決定が先行して2件あったことが判明。
このあたりから「判例変更はないだろうから棄却判決もあり得るな…」と予想していました。
弁論期日は、2024年5月28日(火)14時から。
実は、スウェーデン調査から帰国した翌日のことでした。
2024年7月16日(火)15時に判決言渡しで、予想通りの「請求棄却」で敗訴。
とはいえ、ブロックチェーンや暗号資産、電子計算機使用詐欺罪には詳しくなり、いい勉強になりました。
②生活保護引下げ違憲訴訟(勝訴・上告中)
今年も、生活保護引下げ違憲訴訟に多くかかわりました。
弁護団に加入しているのは、①大阪(控訴審から)、②名古屋(控訴審から)、③京都(控訴審から)、④富山、⑤金沢(控訴審から)、⑥広島(控訴審の最終弁論から)の6つです。
まず、2024年1月24日に本拠地である富山地裁で勝訴を得ました。デフレ調整のみを違法とする判断であり、ゆがみ調整の2分の1処理は判断しませんでした。
現在は控訴審が名古屋高裁金沢支部に係属しており、金沢訴訟と事実上の同時進行となっています。
大野和明裁判長は、老齢加算廃止東京高判の左陪席裁判官でした。この判決では、老齢加算の廃止に朝日訴訟最大判の基準が適用されるかが争点になり、東京高判は朝日訴訟最大判を適用したのですが、最高裁はこれを採用しませんでした。今回、大野裁判長がどのような判断を下すのかに注目しています。
2023年は大阪高裁判決(敗訴)の上告理由書と上告受理申立て理由書の一部を担当しましたが、2024年は2023年11月30日の名古屋高裁判決(完全勝訴)に対する国側の上告受理申立て理由書に対する反論も担当しました。
こちらの2件は、現在も最高裁に係属中となっています。
③在留外国人生活保護訴訟(上告中)
原審は千葉地裁令和6年1月16日、控訴審は東京高判令和6年8月6日で、いずれも請求棄却をしたとの報に接し、いてもたってもいられず、弁護団にアポイントを取り、上告審から加入しました。
外国人に憲法25条1項の生存権が保障されるのか、適法な在留外国人に生活保護受給権を保障しないことは日本人や定住外国人と比べて憲法14条1項に違反するのではないか、憲法25条1項に基づく公法上の当事者訴訟(特に生存権が存在することの確認)が適法に提起できるか等が争点です。
④ストーカー規制法警告訴訟(敗訴・確定)
原審(奈良地判令和5年10月24日)の後、控訴審から参加しましたが、2024年6月26日の大阪高裁判決は、警告の処分性なし、実質的当事者訴訟は「重大な損害」と補充性の要件を欠くとして不適法でした。
これに対して上告をし、上告理由書、上告受理申立て理由書を担当しましたが、残念ながら、上告棄却決定でした(最1小決令和6年12月5日)。
おそらく、銃刀法の許可の欠格事由となるという効果は、法効果性はあるものの一般的・抽象的なものであり、法令制定行為に近いと解されてしまったのだと思います。
また、欠格事由の期間が処分時から3年間なので、最高裁で審理している間に訴えの利益が徒過するということも考えられるかもしれません。
実質的当事者訴訟については、高裁が「重大な損害」や補充性の要件を求めており、これはさすがにおかしいと思いますが、警告それ自体には法効果がなく公法上の法律上の地位が否定されたか、銃刀法の許可の欠格事由が法効果ならば即時確定の利益がないと判断され、受理されなかったのでしょう。
⑤べリーベスト懲戒処分取消訴訟(敗訴・確定)
第一審省略のため東京高裁に係属していましたが、2024年6月27日に敗訴判決しました(谷口園恵裁判長)。
これに対して上告をし、上告理由書、上告受理申立て理由書の一部を担当しましたが、こちらも上告棄却決定でした(最2小決令和6年12月13日)。
本件懲戒処分は法の趣旨を害しないのに憲法22条1項の要求する利益衡量をクリアするのか、弁護士法72条の明確性については司法制度改革意見書でも言及があったのに憲法31条違反にならないのか、一審省略である弁護士会の懲戒制度が憲法32条に違反するのか等、様々な論点が問題になるのですが、最高裁は審査をしませんでしたので、結局、謎に包まれたまま終わりました。
小括
2024年は、とにかく上告審対応が多かった印象でした。
数えてみると、2024年は上告理由書等を4件起案しています。
弁論を1回担当できたのは、とてもいい勉強になりました。
その他の憲法訴訟
共産党松竹訴状(係属中)
2024年3月7日、共産党を除名された松竹伸幸氏の訴訟代理人として、共産党に対して地位確認等を求めて提訴しました。
いわゆる部分社会の法理、その場合の実体審理の程度が問題となるケースです。
弁護団は「宮本から君へ」訴訟で勝訴した平裕介先生、同事務所の堀田有大先生でしたが、途中から名誉毀損に強い弁護士である佃克彦先生が加入し、大変勉強させていただいております。
尼崎市同性婚家事審判(係属中)
何かと話題の同性婚ですが、遂に、弁護団に加入する機会に恵まれました。
フランス人女性と日本人女性の同性婚を、日本国内で認めてほしいという家事審判です。
国家賠償請求だけでなく、婚姻届の受理を求めるものですので、憲法上の「救済」というハードルがあります。
憲法24条1項、13条、24条2項、14条1項のそれぞれの規範内容は何かを考えるいい機会になりました。
もともとは長野県弁護士会で組まれた弁護団の事件でしたが、アディーレ法律事務所の吉田修一先生からのお誘いで加入しました。
人権大会
人生で初めて人権大会の実行委員になりました。
ドイツ調査のアレンジ(連邦憲法裁判所、連邦社会裁判所等)を担当しつつ、ドイツ調査とスウェーデン調査に参加しました(私費です)。
生存権についてはある程度詳しくなったように思います。
以上、簡潔でしたが、2025年もよろしくお願いします。